欲しいのはAbeTV?政治と放送の危うい関係 放送局は自らの手で未来像を示すしかない

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国家による自由を重視する欧州諸国では、放送を所管する独立行政委員会が、番組内容に関する詳細なルールを作り、逸脱をチェックしている。だが、政府から独立しているといっても、行政機関が放送に介入すれば、国家からの自由を侵害するのではないか。

仮に4条を残すなら、倫理規定であることを明示したり、電波法の行政処分事由から4条違反を除外したりする法改正が不可欠だ。

このように、4条だけを見てもさまざまな選択肢が考えられ、それぞれ利点も弊害もある。通信と放送の融合がいっそう進展していくなかで、テレビ、ラジオはどうあるべきか。どんな制度が望ましいのか。放送局自身が熟考して、未来像を示すべきだ。

とりわけ、政府の改革方針は、公共放送以外の公共的なマスメディアの存在意義を否定しているが、それでよいのか。戦後日本の放送はNHKと民放が競い合い、発展してきた。この二元体制を崩すことが、知る権利の後退につながらないか。丁寧な検討が求められる。

改革方針を語る際、民放は4条の意義を強調しがちだ。しかし、表現する主体が、表現を縛る条文の維持を求めるのは、矛盾と言わざるを得ない。4条が政治的圧力に乱用されてきた経緯を考慮すれば、なおさらである。何が問題で、自分たちはどうしたいのか。民放は視聴者にわかりやすく説明する必要があろう。

ハード・ソフト分離を巡っても、既得権を死守するための議論になっていないか。確かに、分離を徹底すれば、ハードに対する免許だけでなく、ソフトにも認定などの手続きが求められるようになり、番組面への総務省の関与が強まるという原理的問題がある。ただ、ハード・ソフトを分離したBSで、災害放送を含め、大きな支障は生じていない。むしろ、例えば経営の厳しい地方局が、地域で、あるいは系列でハードを統合すれば、コスト削減になるはずだ。なぜ分離してはいけないのか。説得力のある論理を組み立てなければならない。

NHKもひとごとではない

番組のネット同時配信を悲願とするNHKは、それを容認した政府の改革方針に、反対していない。上田良一会長は4月の記者会見で、現行法の下での二元体制の意義を認めながら、将来も二元体制が必要か否かについてはコメントを避けた。民放関係者の間には「NHKも民放は不要と考えているのか」と不信が広がる。

だが、安倍政権が改革方針でNHKをほぼ現状維持としたのは、時に政府の言うことを聞かない民放と違い、NHKはコントロールできると踏んだからではないか。かつて安倍首相は、NHKの最高意思決定機関である経営委員会に“お友だち”を送り込み、「政府が右と言っているものを、われわれが左と言うわけにはいかない」と明言する会長を選任させることに成功している。

もしNHKだけが制度上、放送として残ったとしたら、政治的圧力もNHKに集中することになり、その強さは現在の比ではないだろう。NHKも、改革方針をひとごとではなく、自らに突き付けられたものと受け止め、ネット時代の受信料制度を含めた未来像を描くべきだ。

なお、今回の改革方針について、新聞とは対照的に、テレビ、ラジオは当初ほとんど報道しなかった。自分たちに関わることだけに、利益相反を懸念したのかもしれない。しかし、視聴者にも影響の大きい問題である以上、積極的に、かつ客観的に、報道するべきだったと思う。

原 真 共同通信社 編集委員

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はら しん / Shin Hara

1985年共同通信社入社。文化部記者、ニューヨーク特派員、富山支局長などを経て現職。著書に『テレビの実像』『テレビの履歴書』『巨大メディアの逆説』などがある。

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