欲しいのはAbeTV?政治と放送の危うい関係 放送局は自らの手で未来像を示すしかない

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意に沿わないテレビには、放送法4条違反を理由にした停波などの行政処分をちらつかせ、圧力を掛けてきた安倍政権が、その4条を撤廃しようとする真意とは? 写真は安倍首相が「出演して面白いと思った」と語ったAbemaTVの撮影スタジオの様子(撮影:今井康一)

安倍政権が打ち出した「放送事業の大胆な見直し」。放送と通信の融合、国民の財産である電波の有効利用という課題を含みつつも、放送法第4条の撤廃を含む規制緩和の方向性には、首相の意向が反映しているといわれる。当事者としての放送界は、この動きをどう捉えるべきか。

首相が強い意欲

「放送にのみ課されている規制(放送法第4条等)の撤廃」「放送(NHK除く)は基本的に不要に」──。安倍晋三政権が放送改革の方針をまとめた内部文書が、明らかになった。通信と放送の融合というより、通信が放送を呑み込む構図を描いており、放送業界に衝撃が走った。

当記事は『GALAC』7月号(6月6日発売)からの転載です(上の雑誌表紙画像をクリックするとブックウォーカーのページにジャンプします)

放送改革が浮上したのは昨年11月だった。政府の規制改革推進会議(大田弘子議長)が、電波利用料の見直しなどを打ち出した第2次答申で、今後の課題として「放送用の帯域のさらなる有効活用」を明記。「総務省は、放送事業の未来像を見据え、周波数の有効活用などにつき、検討を行うとともに、会議においても引き続き検討」し、2018年夏までに結論を得る、とした。同じテーマについて、推進会議が担当省庁と並行して議論を続けるのは異例だ。

今年に入り、総務省は「放送を巡る諸課題に関する検討会」に、分科会とワーキンググループを設置。推進会議は、経済産業省出身の原英史・政策工房社長が座長を務める「投資等ワーキンググループ」で検討を始めようとしていた。その矢先に、安倍首相が動く。

1月31日、新経済連盟の新年会。「AbemaTVに出て、面白いと思った。ネットテレビだから、放送法の規制がかからない。しかし、見ている人たちにとっては、地上波などとまったく同じ。もう、日本の法体系が追いついていない。私たちは大きな改革を行わなければならない」。首相は挨拶で、放送改革に強い意欲を示し、AbemaTVの藤田晋社長ら居並ぶIT企業トップに新規参入を呼び掛けた。

サイバーエージェントとテレビ朝日が出資するAbemaTVに首相が出演し、憲法改正などについて約1時間にわたり持論を展開したのは、昨秋の衆院選公示の直前。放送法4条の番組準則で、政治的に公平であることを求められる放送では、あり得ない番組だった。

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