母の肋骨を折った不良少年、更生への長い道 自分の体験をもとに出所した若者たちを支援
「今日、初めて家族が夢に出てきたんですよ」
ボロボロに削れた爪を噛みながら、カケル(22)がつぶやく。車は木曽川を渡り、愛知県に入ったところだった。視線は窓の外に向いたまま、何を見ているわけでもない。ただ、次々に移り変わってゆく景色を、ぼうっと、眺めていた。
「僕、相当心配してるんでしょうね……」
自分のことなのに、まるで他人事のようだ。先ほどまで元気に話していたカケルの声は、次第に力をなくしていく。少年院を出所して3年経った、ある初夏のことだった。
なお、登場する少年の名前は、プライバシー保護のため仮名である。
見た目と優しさのギャップ
2017年6月初旬、私は1人の男性に会うため、東京から名古屋へ向かった。15時、指定された名古屋市営地下鉄の駅で待っていると、真っ白なセダンタイプの車が目の前に止まった。その日はよく晴れた日で、立っているだけで汗がにじむというのに、中から出てきた渋谷幸靖さん(35)は、長袖のシャツを着ていた。髪はワックスできちっと固め、髭を2~3ミリに揃えた渋谷さんは「チョイ悪」という言葉がよく似合っていた。
「荷物多いねぇ、遠かったでしょう」
見た目とは裏腹に、たれ目を細め、優しく笑いかけてくれた。強面な見た目からは想像できないほどの優しい表情や気づかいこそが、彼が多くの少年から好かれる理由なのかもしれない。取材用のビデオカメラを持っている私を警戒することもなく、まるでずいぶん昔からの知り合いかのように学校の話や最近の自分の話をしてくれた。普段はアパレル会社の経営と不動産の営業をしていること、在宅で仕事をしているが少年から連絡が来ると気になって仕事が手につかないことなど、話は尽きなかった。その明るくほがらかな表情からは、彼の抱えている過去など、少しも透けて見えない。
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