母の肋骨を折った不良少年、更生への長い道 自分の体験をもとに出所した若者たちを支援
「もしあの時目の前に自殺ボタンがあったら、すぐに押してました」
堕落した日々に終止符を打たねばならない時が来た。繰り返す詐欺行為が発覚し、詐欺罪で逮捕された。当時24歳。地元の名古屋から離れた埼玉県にある少年刑務所に送られることになった。働いていた会社はクビ、当時いた妻とは離婚、2人の娘とは絶縁状態。他人を犠牲にして娯楽に生きた日々は一変した。
教育を中心とする「少年院」と刑罰を中心とする「刑務所」のちょうど中間に存在する少年刑務所は、「更生できる最後のチャンス」として、3つの中で最も厳しい場所だった。無機質な空間。番号で管理され、ご飯もお腹一杯食べることができない。死ねるものなら今すぐ死にたい。塀の向こうは地獄の日々だった。
月に4回、母親からの手紙
月に4回、母親からの手紙が届いた。初めの方は手書きで、励ましの言葉や、実家で飼っている猫の様子、母親の日常の話などが綴られていた。文章の端々に、愛情がちりばめられていた。しかし、少年刑務所生活は長く、毎回長い手紙を書く母親の手は、次第に限界を迎えていた。
「文字を書いていると、指がこむらがえりを起こして思うように動きません」
「この手紙を書くのに、3日かかりました」
気付けば手紙は、手書きから、ワープロで書かれた文字になっていった。2007年12月、外はクリスマスモード一色に染まる中、少年刑務所の独房でたった1人、実家に住む母親から届いた手紙を読んでいた。
「遠く離れて会えないけどお誕生日おめでとう」
2つ折りの画用紙の表には、ワープロの文字と折り紙を切って作られたクリスマスツリー。中には、メッセージとともに、実家で飼っている猫の絵が描かれていた。母親は決して絵が得意なわけではなかった。手を傷め、文字が書けない中で、遠くにいる息子にできる精一杯の愛情表現だった。涙が、止まらなかった。
何度もひどい言葉を投げつけては、暴力を振るうこともあった。そんなひどいことをしてもなお、母親は無償の愛を与え続けてくれた。もう、裏切ることはできない。牢獄の中で1人、母親からの便りに更生を強く誓った。
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