20〜30代女性に「異色スープ本」がウケる必然 包丁や出しを使わないものも
近年、健康志向やインスタ映えなども相まって大ヒットしているサラダに比べると、スープはいくぶんか地味かもしれない。が、若い女性を中心にじわじわとスープに対する注目度が高まっている。今年2月に発売されたレシピ本『帰りが遅いけどこんなスープなら作れそう』は、わずか1カ月で4刷、累計1万7000部を販売。購買者の8割は女性で、20~30代が中心だという。
スープといえば複数の具材を煮込むことから、体によさそうなイメージがある。が、同書がヒットした理由はそこではなく、徹底的に「簡単に作れて、栄養が取れて、見栄えがすること」にこだわったところである。実際、載っているのは、レンジでできる豆乳卵スープや、調味料は塩だけというかぶとネギの鶏肉のポトフなど、ふむふむ、これなら自分でもできそう、と思えてくる。
簡単だけど、ちゃんとしている
昨年の「一汁一菜」ブームなど、世の中は今、料理にも「簡単だけど、そう見えずにちゃんとしている」モノを求めている。こうした中、著者でスープ作家の有賀薫氏のレシピは、出しも、火も、包丁も使わないといった方法で手順を減らし、すべてのスープがほぼ3ステップで完了する。加えて、タンパク源の肉と魚、ビタミン源となる野菜を入れるなど、1品でおかずを完結させられるボリューム感があるのに、具材は数種類と少ない。アボカドや落とし卵といった流行の食材を積極的に使っており、見た目の満足度も高い。
若い女性に刺さるスープ本ができた背景には、有賀氏の異色な経歴もある。会社員を経てフリーライターとなり、長年企業関係の仕事を中心にしてきた同氏がスープ作家になったきっかけは、2011年から大学受験生の息子を起こすため、毎朝異なるレシピのスープを作り始めたことだった。
SNSに投稿すると反響を呼ぶ手応えを得、好きだった料理の世界にはまり込んだ。毎回テーマを決めてスープの可能性を追求する研究会、「スープラボ」を立ち上げて定期的に開催。千数百を超えたレシピと研究成果を引っさげ、出版社にスープレシピ本の企画を持ち込んで第1作『365日のめざましスープ』の出版にこぎつけた。
有賀氏の強みは、ツイッターやイベント、ウェブメディアの連載などを通して情報発信を熱心に行う一方で、反響という形で集めた大量のユーザーの声をデータとして蓄積していることだ。今回の本の場合、料理を苦手と感じる20代の女性編集者の依頼だったことも、読者を具体的にイメージする手がかりになったという。
さらに、ヒットの理由を深掘りしていくと、興味深い事実に直面する。それは、「みんなスープの作り方は知らないし、食べていない。子ども時代、お母さんがポトフやミネストローネを作っていたという人もほとんどいない」(有賀氏)ということだ。つまり、多くの人にとってスープは、なじみの薄い食べ物だったのである。
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