「一汁一菜本」の礼賛に何となく感じる違和感 確かに時代にマッチした提案ではあるが
昨年10月、人気料理研究家の土井善晴氏が出したエッセイ集『一汁一菜でよいという提案』が売れている。発行部数は6月1日時点で12万5000部に上り、テレビや雑誌、ネットなどで、一汁一菜を扱った企画が相次いでいる。
『一汁一菜~』は、土井氏自らが実践するご飯と味噌汁、漬け物だけのミニマムな食卓で日常は成り立つと説き、具だくさんの味噌汁を紹介する。続いて、和食と親の愛情のすばらしさを訴える内容だ。
アマゾンには、6月14日時点で48件もレビューが寄せられている。批判も少数あるものの、大半は「一汁一菜を通じて、本当のおいしさとは何か、幸せとは何かを我々に問いかけ、原点に立ち返る優れた食育の本です」、「『ご飯づくりがんばらなきゃ』の呪縛からも解き放たれ、一汁一菜の食卓を楽しもうと思えます」(原文ママ)など、読んで役に立ったという声が大半を占めている。
日々の料理に悩む人の心を軽くした
「読んで感銘を受けた。土井さんのお墨付きで、堂々とご飯と味噌汁だけ作って出す。やってみたいなと思いました」と話すのは、東京都内の企業で働く37歳のOさん。5歳と2歳の2人の娘を抱える。
もともとは、友人を招いて手料理を出すなど、料理好きだったOさん。しかし、2人目が生まれ、家事の分担を巡る夫婦喧嘩が増えた。料理のために「家の中がギクシャクするなら、ご飯をがんばって作らない」ことに決めた。生協の加工食品を中心に、カボチャの煮つけなどを出す生活に切り替えたものの、「お母さんがちゃんとつくった手料理を食べてきた子じゃないと、将来悪い影響があるかもしれない」と不安を話す。
『一汁一菜~』がここまで大きな反響を呼んでいるのは、タイトルの言葉が、日替わりで品数の多い食卓を正しいと考える一方、実践を負担に思っていた人たちの心を軽くしたからだろう。
一汁一菜を提案した料理研究家は土井氏が最初ではない。しかし、知名度の高い彼がミニマムな献立を提案したことには、一味違う意味がある。
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