会社駅舎論とは次のような考え方です。1つの駅でその仕事をほぼマスターし、もうこれ以上自分を高めるものはない、人間的成長をはかるものはないということなら、電車に乗って次の駅に行き、その駅舎で働いたほうがいい。そこでも「これでよし」と思ったならば、また電車に乗って、自分の希望する駅に行けばいい。あるいは、最初の駅に戻りたいと思ったならば戻ればいいではないか、というものです。
事実、私はPHP研究所の社長時代に、退職届を持ってきた社員を、いかに優秀であろうと引き留めたことはありません。
「転職」は「天職」を見つける旅路だ
それは、その人がさらに自分のスキルなり実力を高めるために、また同時に、人間的成長を図りたいという思いを持っているのでしょうから、会社のために引き留めることは、その人の実力を高める、人間的成長を高める機会選択を奪うことになると思っていたからです。
そういう考えから、私は大いに若い諸君の転職を進めたいと思います。
転職して、新しい組織の中でいろいろな経験をする。いろいろな経験をすることによって、視野も広がり、人間的交流も広がる。当然、情報も集まるようになる。そして転職を繰り返す中で、自分の天職を見つけることができるかもしれません。まさに「転職」は「天職」を見つける旅路ということになるでしょう。
退職金制度も転職をしやすい方向に変わりました。退職金をやめて給料に組み入れる会社が増えており、今では全企業の4分の1の会社が退職金を廃止しています。この傾向は年々増加しています。給料は高いけれども退職金はありませんよ、ということです。企業も、だんだんと社員の転職を容認するようになってきた。その代わり、中途採用を積極的に取り入れ、多種多様な人材を随時採用する傾向がますます強くなると思います。
新卒一括採用、一括教育、一括訓練……。こうした「一括」は百害あって益なしです。多様性が求められるこれからの時代、同じような水準の人材を数多くそろえても無意味です。むしろさまざまな、個性あふれる人材をそろえておくほうが、企業にとってメリットが大きい。規格品のような人材をつくる社員教育では、グローバル競争には勝てません。
会社も、大いに変わってくるでしょう。会社も転職を前提に経営がなされるようになります。「それでも日本的経営は、終身雇用と年功序列と企業内労働組合が根強く残っていく」などという、一時的な分析に企業も社員も惑わされてはいけません。自分のスキルをアップさせるためにも、人間的成長を図るためにも、大いに転職するべきです。そして、流動性のある労働市場こそが日本経済の活性化につながるのです。
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