日本のディスプレーは、それでも生き返る

革命を巻き起こす、トップサイエンティスト

新川崎の線路沿いに現れた緑の小さな森の中に、ぽつぽつとただずむ茶色い建物の一群。この中のひとつが、慶応義塾大学理工学部の小池康博教授の研究室だ。

のどかな環境からは想像がつきにくいが、ここでは2013年度までのおよそ5年間で国から約40億円の資金提供を受ける一大プロジェクトが進行している。小池教授の下、「フォトニクスポリマー」という光を操る特殊なプラスチック素材を活用し、光技術でわれわれの世界を変えようとしているのだ。

「全世界のあらゆるディスプレーに採用されるんじゃないかな。アップル、グーグル、サムスンがみんなエンドユーザーになってくださったらハッピーでしょ」

小池教授がこう期待を寄せるのは、今年2月に発表した液晶ディスプレー用の「超複屈折フィルム」。開発済みの「ゼロ複屈折フィルム」と合わせて使えば、液晶ディスプレーの構造をよりシンプルにでき、画質も有機ELを超える。コストの高い有機ELが次世代のディスプレー候補として挙がっているが、画期的なフィルムの開発により、液晶の次も液晶ディスプレーが主力となる可能性が高まっている。

材料から始まるイノベーション

液晶ディスプレー用フィルムだけではない。NHKが進めているスーパーハイビジョンも、小池教授が開発した世界最速のプラスチック光ファイバーがなければ実現できないだろう。また、従来よりも明るく省エネ効果のある液晶用バックライトは、ソニーのノートパソコン「VAIO」などに採用が広がっている。

液晶ディスプレー用フィルム、高速の光通信、バックライト――分野は違うが、共通するのはフォトニクスポリマーという材料の開発によって、それぞれの領域でイノベーションを起こしているということ。小池教授は「イノベーションは材料から来ているのだ」と強調してやまない。

「材料の機能がシステムを変えていくのです。まだ真空管しかなかった頃、アメリカのベル研究所のショックレーが半導体を発明した。当時の新聞の反応は『補聴器には使えるかもしれないね』程度だったのだけど、数十年経ってみると、半導体の発明の瞬間は、エレクトロニクス社会の幕開けだった。

新しい時代のドアは突然に開くんだよ。真空管をどんどん小さくしていっても、半導体にはならない。同様に、ブラウン管テレビをどんどん薄くしていっても、液晶にはならない。“根こそぎ”置き換わっているんだ」

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