日本のディスプレーは、それでも生き返る

革命を巻き起こす、トップサイエンティスト

バックライトなどの光散乱導光ポリマーとプラスチック光ファイバーでは、いずれも「散乱」という現象を自在に操ることがカギになっている。散乱にかかわる自然現象では夕焼けが有名だ。

夕日が赤いのは、波長が短い青色光が散乱し、波長が長い赤色光が残って目に届くから。だが実は、夕日が赤いというのは地球における固定観念で、光の散乱の仕方が違う火星の夕日は青い。散乱を思いのままにするということは、極端にいえば地球で青い夕焼けを作るようなものだ。

「インチキ」扱いからのスタート

今でこそ散乱について深い洞察を持ち、フォトニクスポリマーの開発で世界トップを走る小池教授。ただ、散乱を制するまでには、長い苦闘の歴史があった。

新しい技術が生まれるときに批判は付きものだが、小池教授がプラスチック光ファイバーを作ったときもご多分に漏れず、「小池の理論はいんちきだ」「それはできないだろう」と冷たい言葉を浴びせられた。当時の研究者たちは、伝送速度を上げるためにゴミ(不純物)を取り除いて光ファイバーを透明にすることに心血を注いでいたのに、小池教授がやろうとしていたのは、反対に微小な不純物を入れて屈折率分布をつけることだったからだ。

小池 康博(こいけ・やすひろ)
慶應義塾大学理工学部教授。慶應義塾大学フォトニクス・リサーチ・インスティテュート(KPRI)所長。1954年長野県生まれ。82年慶応義塾大学大学院工学研究科博士課程終了。工学博士。89~90年米国ベル研究所研究員。97年から現職。専門はフォトニクスポリマー。藤原賞(2001年)、紫綬褒章(06年)などを受賞。趣味はピアノ作曲

確かに、小池教授が博士号を取った段階では、こうした周囲の反応に堂々と立ち向かうだけの結果が出ていなかった。作っても作っても、6メートルで光が衰え、消えてしまった。原因はわかっていた。光ファイバーを通る光が散乱で失われていたのだ。

「散乱損失憎し」――もがき苦しむ過程で、アインシュタインなどの先人たちが残した散乱理論にのめり込んでいった。文献を読みあさり、徹夜もしょっちゅうだった無我夢中の日々の中で、土曜日の夜だけは六本木でジャズのライブを聴いて羽を伸ばし、自らに唯一のリフレッシュを許した。

1989年に渡米。光通信のメッカであったベル研究所で徹底的に光の基本的な原理を学び、散乱の本質に迫る強力な武器を身に付けて帰国した。

そして忘れもしない1990年4月1日のエイプリルフール、思い描いたとおりのプラスチック光ファイバーが完成した。14年にも及ぶ、散乱損失の暗闇から抜け出した瞬間だった。

「もうちょっとでうまくいきそうだなというときに、原点に戻ったところに解がある。不思議なことなのだけれども、最後だけちょこちょこっとやって到達できるものではない」と、小池教授は実感を込めて語る。散乱を操り、散乱損失をゼロにすることで、高速プラスチック光ファイバーが誕生。反対に、光ファイバーでは欠点となっていた散乱損失を効率よくコントロールする発想から生まれたのが、光散乱導光ポリマーだった。

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