副作用なし!がんを直撃する"トロイの木馬"

再生医療がフェラーリなら、こちらはプリウスだ!

がんを直撃する「トロイの木馬」を開発する、東京大学の片岡一則教授
昔々、ギリシャとトロイは10年にわたる戦争をしていました。戦況が膠着状態にある中、ギリシャ勢はオデュッセウスの発案で巨大な木馬を造り、トロイに残しました。トロイの人々は木馬を町に引き入れ、戦争に勝ったと思い込んで油断。その夜、彼らが寝静まると、木馬の中からギリシャ兵がわっと出てきて総攻撃を始め、トロイは1日で陥落しました。

以上はギリシャ神話の「トロイの木馬」のあらすじである。21世紀の現実世界において、人類に立ちはだかるのはトロイではなくて病気。中でも罹患率が高く、命を奪ってしまうことも多いがんは難敵だ。

現代のオデュッセウス、東京大学大学院工学系研究科・医学系研究科の片岡一則教授は、難敵のがんに立ち向かう「ナノスケールのトロイの木馬」を開発した。それが抗がん剤を入れて使う、粒径10万分の3ミリメートルというウイルスサイズの極小カプセル。その名も「高分子ミセル」だ。難治性のがんに効果があり、抗がん剤の欠点も克服できる治療法として、世界的な注目を集めている。

「僕が高校生のときに、医者が小さくなって宇宙艇のようなものに乗り、体の中に入ってがんや脳腫瘍を治療する『ミクロの決死圏』というSF映画がありました。でも、これは人を小さくしているという点で古い。われわれの高分子ミセルは、最近の無人戦闘機同様、リモートコントロールで敵を撃破するから、もっと進んでいるのです(笑)」

片岡教授は少年のようにわくわくした口調で語る。それもそのはず、片岡少年があこがれた『ミクロの決死圏』の具現化であり進化形の極小カプセルは、患者の体の中でがん細胞にまっすぐ到達し、撃破するミッションに次々と成功している。

難治のすい臓がんで、生存期間3倍の例も

5年生存率が10%以下で「難治がんの中の難治がん」として知られるすい臓がん。早期発見が難しく、発見時にはすでに転移し、手術ができないことが多い。できたとしても、すい臓は脂肪組織のような外見で境界があいまいなため、手術には困難が伴う。そのため、抗がん剤を用いた化学療法が中心となるが、通常の投与では抗がん剤が血中に拡散してしまううえ、すい臓がんは繊維組織が多いため、頼みの綱の薬が届きにくいのが現状だ。

ところが、高分子ミセルに抗がん剤を詰めて患者に静脈注射し、がん細胞に送り届けると、効き目は劇的。通常の抗がん剤治療では3カ月程度だった生存期間が、1年以上に大幅に延長される例が出ている。

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