副作用なし!がんを直撃する"トロイの木馬" 再生医療がフェラーリなら、こちらはプリウスだ!

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面白いこともありました。重合の分野では先生が世界一でかなわないので、結果報告をするとだいたい「これはこうで」と説明されてしまうのです。ところが、バイオマテリアルの分野だと、僕のやっていることがわからないから、先生が僕に質問する。それが楽しくて(笑)」

船出したはいいものの、今から三十数年前に博士課程で研究を始めた当時、バイオマテリアルはキワモノ扱いだった。

片岡 一則(かたおか・かずのり)
東京大学大学院工学系研究科/医学系研究科 教授。1950年生まれ。東京大学工学部合成化学科卒業。東京大学大学院工学系研究科合成化学専攻博士課程修了(工学博士)。東京女子医科大学助手、助教授、東京理科大学教授を経て、98年より東京大学大学院工学系研究科教授、2004年より東京大学大学院医学系研究科教授を併任。専門はナノバイオマテリアル、特に薬物・遺伝子デリバリー用材料。フンボルト賞(12年)、江崎玲於奈賞(同)など受賞多数。

「君も大変だねえ。こんなわけのわからないことをやらされて」

出会う先生にやたらと同情され、さすがの片岡教授も少し不安になったが、「このやろう」と自分を鼓舞し続けた。

博士課程では抗血栓材料の開発をしながら、体内への薬物送達システムの研究会にも参加。片岡教授が高分子ミセルを開発する以前、薬物送達システムは脂質の粒子(リポソーム)を使うものが中心だった。片岡教授は「脂質粒子では異物として認識されて、血液凝固が起きてしまうのではないか」などの疑問を抱いたが、誰も答えてくれなかった。

「いい予感がする。まだわからないことがたくさんある。これは宝の山じゃないか!」

そう思った片岡教授は、1980年代半ばに抗血栓材料から高分子ミセルの研究に方向転換。そして、まず頭に浮かんだがんを研究対象に選んだ。ほとんど未開拓の分野だっただけあって、相変わらず周囲の先生は「君のやっていることはよくわからない」と距離を置いていたが、「でも何かきっといいことがあるんだろうね」と、研究を止めはしなかった。

高分子ミセルの研究が初めて評価されたのは、1989年、米国の学会で海外の研究者にお披露目したときのこと。日本でずっと無視されていたのとは対照的に、そこでは外国人がみんな面白がってくれた。今の飛躍につながる世界デビューの瞬間だった。

高分子ミセルで病気の治療をするという画期的な発想は、医学と材料工学の融合があってこそ生まれたもの。医学と工学――この組み合わせにどこかで聞き覚えがないだろうか。実は、片岡教授は連載第1回にご登場いただいた東京女子医科大学の岡野光夫教授(細胞シートの開発者)と、大学院生時代からの研究仲間だ。

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