「会いに行けるアイドル」ならぬ「会いに行ける野生動物」、全身真っ黒な鳥、カラス。ビジネス街でも子育てをするツワモノ、企業戦士顔負けの都会っ子だ。
現代日本におけるカラスの嫌われ度合いは半端ではない。ゴミを荒らし、人を襲うとの悪評は高く、鳴けば死人が出る凶事のシンボルとまでされている。過去、周期的に巻き起こったカラスブームは、ひとえにカラス撃退法であり続けてきた。
しかし、とある“カラス屋”の登場により、カラスは汚名返上のかつてない好機を迎えている。東京大学総合研究博物館に勤務しながら、カラスの行動と進化の研究を続けている松原始氏だ。
2013年、非常に分厚いながら一気に読めてしまう『カラスの教科書』(雷鳥社)を出版。同書は人々のカラスを見る目が優しくなることを願い、コミカルなタッチでカラスの生態を描いた意欲作である。
「カラスはなんとなく嫌い、怖いと思われている。でも、カラスが面白いと思えれば、日常がなんとなく楽しくなる。嫌いなものが多いより、好きなものが多いほうが人生は楽しい」
ユーモアを含ませた語り口でそう話す松原氏は、大学の卒業研究以来、オンもオフもカラス一筋に生きてきた、自称“カラスばか一代”。ほの暗い博物館内で会ったときも、学会に行ったときの名刺代わりだという自作のカラスTシャツを着用。心なしか、雰囲気もカラス色に染まっている。
松原氏がカラスと深く付き合うきっかけとなったのは、京都大学理学部の卒業研究で研究する生き物を選んでいたときのこと。指導教官に「カラスが好き」だと伝えたことから、カラス談義に花が咲いた。
「この間、テレビで見たんだけど、カラスが女性や子供をバカにするというのは本当かな? もし本当だったら興味深いと思う」
指導教官のこの一言が決め手となり、松原氏はカラス道を邁進することになった。
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