カラスを好きになれば、人生は楽しい? カラスの感性を身に付けた、稀代の動物行動学者

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「『カラスは賢い』というイメージだけが先行していて、どこがどのように賢いかという具体的な研究が置き去りになっている。一般の人だけでなく、研究者の間でも全部『賢い』でくくられてしまうので、もう少しちゃんと見ないといけないだろうとは思います」

それに、カラスは利口に見えて、「アホー」な行動をとることもしばしばあるということも忘れてはならない。松原氏は2つの例を挙げた。

「輪ゴムでとめた透明パック入りのご飯を食べようとして、ガツッとくちばしが当たってもどうすればいいかわからないという場面を見ました。真正面に餌が見えるという刺激が強くて、横から開けるということに気づかない。そのうち輪ゴムにくちばしが引っ掛かって、輪ゴムをたどってつつきまわしているうちに開けるのに成功しましたが、引っ掛からなかったらひたすらたたき続けたでしょうね。

また、銭湯の煙突から出てくる熱気で煙浴をするのですが、空中湿度と集まってくる数がきれいに相関する。つまり、空気が湿っぽくて羽が重くなると乾かしに来る。というと賢いと思うでしょうが、空中湿度100%の日、すなわち雨が降っているときもやるんです。シャワーに当たりながら乾燥機かけるようなこと、やめんかっていう(笑)。賢いようで、根本的にはわかっていないのです」

カラスについて語り始めれば止まらない。小ネタも尽きることがない。そんな松原氏が現在、目をつけているのは、八重山諸島にいるオサハシブトガラスだ。島ごとに違う環境の中で、行動も形態も1000年ほどの短期間で驚くほど別々の進化を遂げているようだという。

「実は八重山諸島はガラパゴス諸島のようなところだったとわかりました。これからオサハシブトガラスの基礎的な生態から押さえていかないといけませんが、この調査を進めたら『カラスの教科書 リゾート編』ができますね。『リゾート編』と『登山編(インディ・ジョーンズ編)』はそのうちやりたいな(笑)」

400ページの大著『カラスの教科書』はまだ序の口。日本一のカラス屋の1歩1歩が、まだ見ぬ続編の1ページ1ページにつながっていく。

(撮影:梅谷秀司)

 

長谷川 愛 東洋経済 記者
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