カラスを好きになれば、人生は楽しい? カラスの感性を身に付けた、稀代の動物行動学者

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とはいえ、長年、研究をしている松原氏なら、何らかの理由をつけて研究資金を獲得しているだろうと思っていた。が、この推測は見事に裏切られた。

「あ、おカネですか。取ったことないです。全部自腹。なんとか自己主張して取りたいのですが、僕はウソくさいことを書いていると、だんだん自分で嫌になってくるので、極めて正直に『自分の研究は何の役にも立ちません』と言ってしまいます。

松原 始(まつばら・はじめ)
東京大学総合研究博物館特任助教。1969年奈良県生まれ。95年京都大学理学部卒業、2003年同大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。専門は動物行動学。研究テーマはカラスの行動と進化。著書に『カラスの教科書』(雷鳥社)。

でも、意外とおカネはかかっていないんですよ。研究に必要なのは基本的に双眼鏡とノートだけ。双眼鏡は学生のときから使っているもので、音を流すスピーカーは共同研究者の私物や、その人の息子さんが秋葉原でパーツを買ってきて作ってくれたもの。あとは旅費と、ガソリン代くらいです」

ポケットマネーをはたいてカラスを見つめ続ける松原氏は、いい意味でも悪い意味でも、カラスがこれほど人々の関心を引く理由を、こう分析する。

「カラスは、大きさや行動の持続時間など、スケール感が人間に近いせいもあるのか、不思議な行動をちょくちょくやるように感じます。ほかの鳥も不思議な行動をしますが、だいたい生存のために意味がありそうだなと思えます。いろんなことをしていても、小さすぎたり速すぎたりして、人間が気づかない行動も多いのでしょう」

確かに、カラスの行動はときに人っぽく、妙に親近感が湧くところがある。変なものがあると首を伸ばしてじーっと見ていたり、餌が目の前にあるのに人間が横にいてそわそわしていたり、松ぼっくりを足で握ったまま口にくわえてゴロゴロ転がっていたり。ユーモラスで表情豊かという点では、インコやオウムと通じるものがある。

「カラスとインコは割と似ていますよ。どちらも頭がいいといわれている鳥ですし、集団生活をするのでコミュニケーション能力が高い。われわれは自分の考えていることや感じていることを周りに漏らすことで、『いかにも寂しそう』と思わせるなど、無意識にコミュニケーションをとっています。カラスやインコが人間から見て何か考えているように見えるのは、彼らがわかりやすく情報を漏らしているからでしょう」

松原氏はそう話しつつも、「カラスは賢い」と単純にまとめてしまう態度には賛同しない。近年は道具を作って木の中の虫を釣るニューカレドニアのカレドニアガラスがテレビなどで取り上げられ、日本でもカラスが堅いクルミを車に引かせて割って食べる行動が各地で目撃されている。世の中ではこうしたことを総じて「賢い」と称するが、松原氏の考えは違う。

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