小池教授が生み出した数々の発明品の展示室に招かれる。入ってすぐ目に飛び込んでくるのが、見たこともないほど臨場感のある映像を代わる代わる映している、1枚の大きな板だ。部屋の電気を消すと、板の映像はまるで現実のようにリアルに迫ってくる(写真)。
元は白濁した板だが、後ろから光を当てられているのに、後ろには何も映らない。映像が映し出されるのは前方だけだ。この板の材料は「光散乱導光ポリマー」といい、医療用ディスプレーなどとして活用が期待されている。のみならず、前方のみを明るく照らし出す性質を生かし、ソニーのノートパソコン「VAIO」やパナソニックの「Let’s note」などのバックライト用にすでに広く採用されている。
かつて、バックライトを明るくするためには、透明な板を使えばよいのではないかと考えられてきた。だが、透明な板を後ろから照らすと、真ん中が明るくても周辺が暗くなるなどの問題があった。それを見事に克服し、新素材で2倍の明るさを実現した。
もうひとつ、手品のような光景をお目にかけよう。プラスチックの円柱の中をくねくねと曲線を描いて進むレーザーの光(写真)。見た目にも面白いこの円柱は、中の屈折率分布を絶妙に調整することによって、どの角度で入った光でも同じ時間で端から端まで到達するという仕掛けになっている。
同じ構造を細くしたものが、小池教授の“息子”のひとり、世界最速のプラスチック光ファイバーだ。伝送速度は現在普及しているガラス製の光ファイバーをしのぐ。
従来のプラスチック光ファイバーでは、まっすぐ入った光は早く端まで到達し、斜めに入った光は反射して進む距離が長い分、到達にかかる時間が長くなっていた。そのため、光ファイバーの入口で細かく信号を打つと、出口でバラツキが出て区別できなくなるので、伝送速度は毎秒0.1ギガ(ギガは10億)ビットがやっとだった。
小池教授は、プラスチックに微粒子を混ぜることにより、円柱の中心部分の屈折率が高く(光が遅く進む)、周辺が低く(光が速く進む)なるような理想の屈折率分布を形成。光の信号の到達時間のバラツキがほとんどなくなった結果、小池教授のプラスチック光ファイバーは、従来の400倍に当たる毎秒40ギガビットの伝送速度を達成した。1本の映画を数秒で伝送できる速さに相当する。これなら、すばらしく快適な高速通信ライフが楽しめそうだ。
今、横方向の画素数が現行のフルハイビジョンの2倍の約4000ある4Kや、スーパーハイビジョンといわれる現状の4倍の8Kといった高精細の次世代テレビ規格が推進されている。8Kの実現には、毎秒120ギガビット以上の伝送速度が必要になるが、小池教授のプラスチック光ファイバーを束ねれば、細いケーブル1本でクリアできる。近い将来、家庭内のさまざまな情報機器を光ファイバーでつなぐことも予想されるが、ガラス製は割れるので危険が伴う。そこで、自由に曲げたり結んだりできるプラスチック光ファイバーの出番が急増するのは間違いない。
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