小林製薬「小さな池の大きな魚」戦略の舞台裏 ニッチ市場で高シェア商品を連発できるワケ

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創業は1886年、当初は雑貨や化粧品の卸売りの会社でした。そのため、メーカー事業に参入する際は、ほかの取り扱いメーカーに迷惑をかけないよう、世の中にない商品・市場を開発しなければなりませんでした。これが今も同社の経営理念となっている「創造と革新」の原点です。自分の力で新しいものを創り出すこと(創造)と、今のやり方・考え方を変えて新しくすること(革新)は、単なる掛け声ではなく、創業以来の信念なのです。競合している他社に比べ、「何か新しいことがしたい」「何か違うことがしたい」が社員全員の思いでした。

「小さな池の大きな魚」戦略

そこで同社は、誰も見つけていない新しいニーズを見つけ、アイデアを開発し、誰よりも早く製品開発して顧客満足のための改善を繰り返す、というビジネスモデルを構築しました。「小さな池の大きな魚」戦略です。

経営戦略論として、レッドオーシャン(競争の激しい海域)とブルーオーシャン(競合相手のいない海域)という考え方があります。血で血を洗うような競合市場より、競争のない未開拓領域を切り開くべきだ、という考え方です。この考え方に倣えば、小林製薬の戦略は、ブルーポンド(未開拓の小さな池)ということができます。

競合が多く、大手企業が参入しており、マーケティングコストが高いレッドオーシャンは、たとえそれが大きな市場でも、同社として大きなシェアを得られないと考えられます。仮に100億円市場とすれば5%のシェアで100億円×5%=5億円の売り上げが期待できる程度です。目を小さな池に向ければ、10億円の市場規模でも50%のシェアが確保できる可能性があります。売り上げは同じ、10億円×50%=5億円です。そして、大手企業が参入せず、マーケティングコストが低いことから、シェアはさらに伸ばせる可能性もあります。

小林製薬の「小さな池の大きな魚」戦略は、多くの商品分野で成果を上げている(図表:小林製薬)

この小林製薬の「小さな池の大きな魚」戦略は、多くの商品分野で成果を上げています。洗眼薬分野で「アイボン」は68%、女性保健薬分野で「命の母」は58%、口中清涼剤分野で「ブレスケア」は77%、水洗トイレ用芳香洗浄剤分野で「ブルーレット」は75%、額用冷却シート分野で「熱さまシート」は58%、そして傷あと改善薬分野での「アットノン」のシェアは、なんと93%を占めています(2016年12月小林製薬調べ)。

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