「人は誘惑に弱い」と知るイスラム教の不倫観 リビドーはコントロールできるのか
一方で、イスラムは不倫や婚前交渉には厳しいというのも事実です。ジナの罪(通姦、不倫)と呼ばれてイランや一部の地域では、石打ち刑や鞭打ち刑の対象にもなっています。イスラム法の統治が行われていない現代の多くの国でも、エジプトのようにジナの罪には刑事罰が適用される可能性があるほか、一族の尊厳を守る「名誉殺人」に発展する場合もあります。それはなぜなのでしょうか。
11世紀後半に生まれたイスラム神学者、アブー・ハーミド・ムハンマド・イブン・ムハンマド・ガザーリーは、神の被造物である人間の宗教上の目的は「宗教」「理性」「子孫」「生命」「財産」の5つを守ることだと規定しました。
神の前で正直であり、嘘をつかないという教えに加え、当時のアラビア半島は、部族が群雄割拠して争いも絶えず、生命や財産を守るのにも命懸けでした。婚前交渉や不倫は、血統を中心とした財産分与での争いの元。子孫繁栄の根幹である家族の絆に悪影響を及ぼすため、不倫はタブーとされたのです。
一夫多妻はリビドーを抑える答えなのか
こうした歴史的経緯から、結婚前の性交渉や不倫には今もイスラム圏は厳しいのです。ですが、リビドーや欲望は婚姻関係の有無にかかわらず、消えることはありません。このような衝動をどのように制御していくのか。一夫多妻制がその答えなのでしょうか。
イスラム教というと真っ先に一夫多妻制を想起する人もいるかもしれませんが、そもそも一夫多妻制はイスラムが生み出したものではありません。イスラム誕生以前の社会習慣をより現実的かつ理想的な形で取り入れている面もあります。イスラム以前の社会では、コーランで容認される4人よりも多い妻を持つ例もありました。コーランは4人以下にせよとの訴えたものであり、一夫多妻を奨励する記述ではないとの解釈もあるのです。
ところが、筆者が接するイスラム主義者の多くはこうした説とはちょっと違う解釈をしています。最近会ったイスラム組織「ムスリム同胞団」幹部、モハメド・スーダン氏は次のように話しました。
「日本もそうですが、欧米社会では結婚していても妻のほかに愛人がいたりするというのを聞きます。イスラム教徒はこうしたことは許されていませんが、たとえば、複数の妻を平等に扱えるだけの経済力があるなどの条件を満たせば、4人までの妻帯が許されています」。
「子どもに恵まれない女性や、シリア内戦のように男性が多く亡くなった社会、旦那を若くして失った女性を救済するという面でも一夫多妻は極めて意味のある制度です。一夫多妻制を含めてコーランに明確に書かれている文言に関しては、解釈を変えることはできません」。
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