買春エリート夫の「家庭のため」という言い分 「不倫はしない、妻は大事」なのになぜ?
これまで研究していなかった買春客の側
キャシーは彼女らしい興奮した口調で叫んだ。「あたしのお客があなたと話したいって!」
「君を買う人ってこと?」
「マーティンっていうの。ほんとにいい人だよ」
これには驚いた。買春客の側は、セックスの売買でぼくが研究してない側面だった。ヤクの売人や風俗嬢相手にやることがもう山ほどあったし、たぶんぼくは、おカネを払ってセックスすることについて話したい男なんてあんまりいないだろうと高をくくっていた。
でもキャシーによると、彼女はマーティンに、ぼくはとても心が開けていて、犯罪者みたいな扱いを受けたことは一度もない、ずっとそう話してくれていたそうだ。「彼、とにかく誰かと話したいんだと思うよ」と彼女。「彼、最近あんまりヤりたがらないし」
欲求不満の男相手に精神分析屋のお役目なんてやる気ないし、と言ってみた。
キャシーは怒り出した。「あなた、この世界のことなんでも知りたいって言ってたでしょ。あのね、お客もこの世界の一部なの。お客がいないと、この世界なんて最初っからないんだって」
何日かして、また別のホテルのバーで、ぼくはマーティンと向かい合って座っていた。やせて背が高く、スーツは仕立てのツイード、胸のポケットには青のハンカチ、話しながらまっすぐなブロンドの髪が目にかかるのをしょっちゅうかきあげる。髪の毛1本1本、それぞれあるべき場所が決まってるみたいな調子だ。
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