人を引きつけるには、少し出し惜しみしたほうがいいという話をよく耳にする。私は真逆のタイプ。聞かれなくても意見を言ってしまうし、考えていることがあれば黙っていられない。それでも、寡黙とまで言わないまでも、やや謎めいている人には関心をそそられる。知りたい情報を簡単に手に入れることができる今の時代ではなおさらだ。
実は、日本にも世界に誇る最高の「ミステリアスガール」がいる。小野小町――。六歌仙の1人に選ばれたただ1人の女性、彼女の名前を知らない日本人はほとんどないだろう。多くの男性をその美貌で魅了し、数多くの作品にも登場する魔性の女。今でも、絶世の美女として名を残している小町だが、その実像は謎に包まれている。
「ちょっと病んでる美女って感じ」
小町の姿をとらえた著名な絵師による作品が数多く残っているが、どれを取っても似通った雰囲気を醸し出している。目を奪う鮮やかな色に染めた十二単(ひとえ)の裾がふわりと広がり、その上には身をよじる女性の優雅な姿。これぞ後ろ姿が美人のバックシャン。しかし、肝心のお顔は豊かな黒髪の影に隠れたままだ。
小町について歌人、紀貫之は『古今和歌集』の「仮名序」でこう記している。
これは小町に対する最古の記録であり、評価でもある。現代人の耳には少し微妙な響きに聞こえるかもしれないが、作風を論じているので、当時の「もののあはれ」的な美学に基づいた評価となっており、申し分ない絶賛の言葉だ。しかし、現代の飲み会で最も盛り上がる「有名人の誰々に似ている」という定番の話題が、平安時代に根を下ろしているというのは何よりもの驚きだ。
謎のベールに包まれた小町が数百年を通して人々を虜(とりこ)にしてきた理由の1つは、彼女の作品が潜めている妄想をかき立てる不思議な力ではないかと思う。
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