安倍総理が「嘘でした」と言えない哲学的理由

カント的に「私欲は皆無」という嘘こそ最悪だ

必然的に「1点の私欲もなく、ひたすら国民のことを考えて行為しました」というウソは、哲学者・カントによればウソの中で最も悪質なウソだといいます(写真:日刊現代/アフロ)

この連載では、森友学園問題や加計学園問題をはじめ、連続して政治家や官僚のウソについて取り上げてきました。その後、都議会議員選挙では、自民党が歴史的大敗を喫し、最後の秋葉原での応援演説では、安倍さんの声もかき消されるほどの「帰れ! 辞めろ!」コール、さらに内閣支持率は30パーセントを切り……と、安倍王国の目が覚めるほどの大瓦解を目の当たりにして、もはやこのコラムで問題にする必要はないようです。

と申しますのも、私にとって、わが国のこともわが国民のことも結局はどうでもいいのであり、ただ政治家や官僚などのウソの大隠蔽工作(これ、あくまでも個人的印象です)が無性に気持ちが悪かったので、しばらく書き続けただけ。

「ウソかどうか」ばかり議論される国会答弁の退屈さ

この連載の記事一覧はこちら

わたしの本来のテーマは、国民の幸福の実現でも、成熟した民主主義の実現でもなく、真理の実現ですらない。そうではなくて、どうして人は「ウソをつくべきではない」と言いつつ、たえずウソをつき続けるのか、というもっと基本的な問題です。

この記事を書いている本日(7月24日)も、国会閉会中審査のテレビ中継を午前9時から午後3時まで(昼休みを挟んで)ずっと見ていましたが、みな「A氏とB氏の発言は矛盾している。どちらかがウソをついているはずだ!」とか、「A氏の発言は、あらゆる点から見て不自然であって、ウソに違いない!」とか、「C氏の発言からは誠意が感じられないから、ウソである」とか、えんえんと議論していて、「ウソをついた!」という形で他人を非難することに終止し、云われた当人も「ウソではない」と弁解するのであって、誰も「なぜ、ウソをついてはいけないのだ?」とか「私があのとき語ったことはすべてウソだ」と発言することはない。あまりにも退屈で、途中2時間も眠ってしまいました。

くだらない、あたりまえじゃないか、と言われるかもしれないけれど、哲学的には全然あたりまえではないのです。「カフカのパズル」と言われるおもしろい問題があります。MはNとの間に契約を結ぶのですが、それはとてもバカげたものに見えますが、しばらく我慢してもらいたい。MはNがある毒(G)を呑んだら、Nの銀行口座に10万円振り込むという提案をし、Nはそれを承諾する。Gは呑むときにまったく苦痛を伴わず、ただ呑んだ後24時間不快な気分が続くだけで、さらに後遺症はまるでない。賢明なる読者は、このあたりで、「こんなバカげた契約があるか!」と叫び出したくなるかもしれませんが、さらなる我慢が必要です。

次ページ10万円を受け取ったあと、毒を飲むべきか?
キャリア・教育の人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • 実践!伝わる英語トレーニング
  • 晩婚さんいらっしゃい!
  • 野口悠紀雄「経済最前線の先を見る」
  • 最新の週刊東洋経済
トレンドライブラリーAD
人気の動画
ホンダ「4代目フィット」がイマイチ売れていない理由
ホンダ「4代目フィット」がイマイチ売れていない理由
京セラのガラパゴススマホ「トルク」がたどり着いた境地
京セラのガラパゴススマホ「トルク」がたどり着いた境地
「人のために働く職業ほど低賃金」な根深い理由
「人のために働く職業ほど低賃金」な根深い理由
「半導体パニック」自動車産業に与える巨大衝撃
「半導体パニック」自動車産業に与える巨大衝撃
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
これが世界のビジネス常識<br>会社とジェンダー

「ジェンダーギャップ指数ランキング2021」で日本は120位という結果に。先進7カ国中で最下位かつ、女性の社会的地位が低いとされるアフリカ諸国よりも下です。根強く残る男女格差の解消は、日本経済が再び競争力を取り戻すために必須の条件です。

東洋経済education×ICT