近所の喫茶店でギョッとする表紙の新刊書籍を見つけた。『ニセチャイナ』という刺激的なタイトルの下に、映画『ラストエンペラー』でおなじみの愛新覚羅溥儀、歴史の教科書で名前だけ憶えている汪兆銘、ほかには聞いたこともない男たちが並んでいる。背景は中国地図の上に日章旗を思わせるイラストが描かれ、帯には、「漢奸として闇に葬り去られた対日協力偽政権史」とある。
中身はありがちな反中国的な本ではない。資料集のような淡々とした筆致と豊富な写真・年表で500ページが埋め尽くされ、1931年の満州事変以後に中国大陸にできた数々の親日傀儡政権の成立から解散までを丁寧に紹介している。いったい誰が何の目的でこの大著を執筆したのだろうか。喫茶店のオーナーに聞くと、僕が住んでいる蒲郡在住の若手研究者だという。三重大学や愛知大学で非常勤講師として教えつつ、執筆活動をしているらしい。ますます興味が湧いた。
インタビュー場所に現れたのは、文化系男子を絵に描いたような風貌の広中一成さん(35歳)。生まれも育ちも蒲郡で、日本史との出会いは往年の人気ゲームソフト『信長の野望』……。意外と親しみやすい人物のようだ。ゲーム話から聞くことにしよう。
弱い人こそ、愛着がわく
――コーエーの『信長の野望』、懐かしいですね。名将を生んだ愛知県民だから夢中になったという側面もあるのでしょうか。
いえ。私は信長・秀吉・家康の三英傑は嫌いです。強すぎてつまらないから。勝つに決まっている大名でプレーして何が楽しいのでしょうか。私が選んだのは、日向の伊東氏や若狭の一色氏などの絶対負けそうな人たち。死にそうに弱いところに愛着がわいちゃう(笑)。もちろん、負けないようにプレーして最終的には伊東氏や一色氏で天下統一しますよ。途中で、蒲郡地域の武将だった鵜殿氏を家臣に取り立てて、天下統一の直前に大名に昇格させるのです。あの鵜殿が大名に! 気分がいいでしょう。
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