人がやらないことをやるのが研究者としての近道
――「弱い嫌われ者が好き」。ゲーム少年時代から一貫していますね。研究者を志したのはなぜですか。
大学4年間でいろいろ調べて勉強したので、このまま終えるのはもったいないと思って大学院に行きました。あわよくば研究者に、と思っていましたよ。でも、修士論文がなかなか書けなくて修士課程に4年もいました。
親日傀儡政権、特に冀東防共自治政府をテーマに定めたのはその頃です。私はもともと日本史が好きだったので、日本もかかわることを研究したいという思いがありました。
いやらしい話ですけれど、人がやらないことをやらなくては研究者として評価されません。満州国はすでに多くの研究者が取り組んでいます。でも、冀東はほとんど誰もやっていない。指導者だった殷汝耕はほとんど知られていないでしょう。鹿児島第七高等学校や早稲田大学で学び、日本語がペラペラで、日本人女性と結婚して、常盤津や長唄もたしなんだ面白い人物です。
単に知られていない事実を調べただけでは通用しません。(学会などで)「で、何が言いたいの?」と言われて終わりですから。研究テーマに歴史的な価値を見いだし、現在の問題とのつながりを示さなければなりません。
――親日傀儡政権は当時の体制側ですよね。弱者をテーマにするという広中さんの方針と矛盾していませんか。
現在、親日傀儡政権の指導者たちは漢奸、すなわち売国奴扱いですよ。犯罪者として死刑にされて、醜悪な銅像を立てられて、現在に至るまで唾を吐きかけられている。でも、彼らは彼らなりに言い分があるはずだし、そもそも歴史的事実にマイナスのレッテルを貼ってはいけないのです。
正しいとか正しくないという次元の話ではありません。何があったのかを事実をねじ曲げずに書くことが大切だと思っています。
――「歴史的な価値を見出し、現在の問題とのつながりを示す」必要があるとおっしゃいましたが、親日傀儡政権を研究することにどんな意義があるのでしょうか。
傀儡政権というのは、戦争に負けた側に樹立される政権の普遍的な一形態です。現在、アメリカがアフガニスタンやイラクでやっていることと基本的には同じですよ。直接統治をすることもあるけれど、たいていは国内にいる協力者を集めて親米政権ができるでしょう。
歴史は繰り返します。負かした敵国に乗り込んで行って傀儡政権を作ったとき、その国の人たちはどのような反応をして政権はどんな末路をたどるのか。親日傀儡政権はその例題となっているのです。
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