5歳児衰弱死事件の親が抱えた4つのハンディ 「子どもの育て方を知っている」は当たり前か
2014年5月、神奈川県厚木市のアパートで幼い男の子の白骨化した遺体が発見された。亡くなったR君は当時5歳。人が多く住む住宅地の中、ゴミがうずたかく積まれた一室で子どもがひっそりと死亡していた。その事実に7年もの間、誰一人として気づかなかった。その衝撃は、新聞をはじめ多くのメディアがセンセーショナルに報じた。
なぜR君は死ななければならなかったのか。
父親であるSは、当初懲役19年の殺人罪に問われたが、最終的には懲役12年、保護責任者遺棄致死の罪となり、裁判は終結した。しかし、裁判の過程でまだ明らかになっていない事実がある。父親であるSが抱えていたハンディキャップと孤独、社会的なサポートの欠如についてだ。それらをひもとかないかぎり、このような事件がいつかまたどこかで起きる可能性も否定できない。
前回の記事でも触れたとおり、Sには少なくとも4つのハンディキャップがあった。ひとつは、知的なハンディキャップ。2つ目は、精神疾患を抱えた母親の下で育った生い立ち。3つ目はシングルファザーであったこと。4つ目は妻も実家との関係がよくなかったことだ。
前回記事で、知的なハンディキャップと、精神疾患を抱えた母親の下で育った生い立ちについて取り上げた。今回の記事では残りの2つ、シングルファザーであったこと、妻も実家に頼りきれなかったことについて取り上げたい。つまり父と母の孤立についてである。
シングルファザーの孤立
シングルファザーはシングルマザーよりも、子育ての情報にアクセスしにくいといわれる。そのことが、今回の事件に及ぼした影響は小さくないと筆者は考える。
Sの妻は、R君が1歳半のころ、風俗店で働き始めた。R君は午前中から託児所に預けられ、時には引き取りは深夜12時を回った。周囲の、風俗店で働く女性たちにとって「託児所に子どもを預けること」は日常だった。だがSは、妻が家出をして父子2人暮らしになった後、仕事をしている間、R君を粘着テープで外から留めた寝室に閉じ込めた。裁判で、Sは託児所を知らなかったと言った。
もし、Sの周囲のシングルファザーに子どもを「託児所」に預ける「文化」が当たり前にあったら、預けたのではないか。Sはある新聞記者と拘置所で面会したときに、児童相談所の知識があれば、子どもを預けたとも答えている。
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