5歳児を衰弱死させた父親の絶望的な「孤立」 「助けを求めることを知らない」親たち

拡大
縮小
メディアや検察が強調した「残虐な父」というストーリーだけでこの事件を語れるのか(撮影:今井康一)
2014年に神奈川県厚木市内のアパートで、幼い男の子の白骨遺体が発見された。父親が一審では懲役19年の殺人罪に問われたが、今年1月の二審判決ではその原判決が全部破棄され、懲役12年の「保護責任者遺棄致死罪」となった。
いったいこの事件で何が起きていたのか。児童虐待の問題にも詳しいジャーナリストの杉山春氏が迫ります。
前回記事:厚木5歳児衰弱死事件が示す「法医学の限界」

 

2014年5月、神奈川県厚木市のアパートで幼い男の子の白骨化した遺体が発見された。亡くなったR君は当時5歳。人が多く住む住宅地の中、ゴミであふれかえった一室に、遺体は7年も放置され、誰も気づかなかった。当時、新聞をはじめ多くのメディアがその事件をセンセーショナルに報じた。

R君はトラック運転手であるSと2人で暮らしていた。母親が家出した後、電気、ガス、水道が止まった。その部屋の扉に粘着テープを貼り、R君を閉じ込めた状態で、Sは日々仕事に出掛けた。

2人の生活が2年を過ぎた頃、R君はひっそりと亡くなった。メディアはSがいかに「残虐な父」であるかを競うように強調して書いた。前回記事でも書いたとおり、検察もそのストーリーに沿って裁判を進めようとした。

R君の失われた命は戻らない。しかし筆者は1審、2審の裁判を傍聴し、拘置所で父親のSとの面会、手紙のやり取りを続けるなかで、「残虐な父」というストーリーだけでこの事件を語れるのかと、違和感を持った。そして社会にSOSを出せない家族が、ここまでの孤立を抱え込むのかということを感じた。

「大阪二児置き去り死事件」との相違

この事件と少々似た事件がある。2010年の夏、大阪市西区で23歳の風俗店に勤務する母親が3歳の女の子と1歳半の子を50日間、風俗店の寮である単身者向けマンションに置き去りにし、亡くした。この事件を筆者は『ルポ 虐待: 大阪二児置き去り死事件』にまとめている。

この母親も、子どもを部屋に閉じ込めて、外側から粘着テープで扉を留めた。寮に戻らなかった50日間、男性の家を転々とした。

次ページ雨戸を閉めきった家の中で
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本製鉄、あえて「高炉の新設」を選択した事情
日本製鉄、あえて「高炉の新設」を選択した事情
パチンコ業界で「キャッシュレス」進まぬ複雑背景
パチンコ業界で「キャッシュレス」進まぬ複雑背景
イオン、PB価格据え置きの「やせ我慢」に募る憂鬱
イオン、PB価格据え置きの「やせ我慢」に募る憂鬱
「イトーヨーカドー幕張店」激戦区の大改装に差した光明
「イトーヨーカドー幕張店」激戦区の大改装に差した光明
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
  • 新刊
  • ランキング
東洋経済education×ICT