厚木5歳児衰弱死事件が示す「法医学の限界」 作られた「残酷な父」というストーリー

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日本の法医学の問題に迫ります(撮影:今井康一)
2014年に神奈川県厚木市内のアパートで、幼い男の子の白骨遺体が発見された。父親が一審では懲役19年の殺人罪に問われたが、今年1月の二審判決ではその原判決が全部破棄され、懲役12年の「保護責任者遺棄致死罪」となった。
裁判でいったい何が起きていたのか。児童虐待の問題にも詳しいジャーナリストの杉山春氏が、法医学の問題に迫ります。

極まった孤立

2014年5月30日、神奈川県厚木市内のアパートで、幼い男の子の白骨遺体が発見された。R君。5歳7カ月で亡くなっており、生きていれば中学1年生だった。

当時、居場所のわからない子どもたちが虐待死する事件が続き、全国的に居所不明の子どもが探されていた。そうした中、厚木児童相談所が警察署にR君の行方がわからないと届け、R君はゴミに埋もれた部屋の布団の上で発見された。父親のSは発覚するまで7年以上、ずっと家賃を払い続けていた。

Sは当時、トラック運転手だった。長男のR君が3歳のとき妻が家を出て行った。その後、自分や妻の実家にも勤務先の会社にも、1人で子育てをしているとは伝えなかった。ガス、電気、水道が止まった部屋で、雨戸を閉めきり、真っ暗闇の中で、6畳間の外とつながる掃き出し口と、ふすまの出入り口をガムテープで止め、子どもが外に出て行かないよう閉じ込めていた。

事件が発覚した直後から、メディアは事件をセンセーショナルに報じた。2014年6月18日の朝日新聞朝刊には、「R君は自力で立ち上がれず、パンの袋も開けられなくなっていた。『パパ』。消え入りそうな声を絞り出すのがやっとで、怖くなって逃げ出すS容疑者に追いすがることもできなかったという」とある。

毎日新聞(2014年6月16日)は「母親が家を出た後、父親も交際相手ができ、(R君は)一人取り残された。電気を止められた部屋で、R君は父親が時折持ってくるパンの袋を開ける力もなくなっていた」。読売新聞(2014年6月14日)は「父親は玄関を施錠して週1、2回しか帰宅せず(略)『パパー、どこー』。R君も密室から何度叫んだことだろう」とある。

「残酷な父親」のイメージが社会に広がった。

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