5歳児衰弱死事件の親が抱えた4つのハンディ

「子どもの育て方を知っている」は当たり前か

これに限らず、困った時に社会にSOSを求めるという「文化」を、Sは知らなかった。

数少ないシングルファザー研究のひとつ、「シングルファザー生活実態インタビュー調査報告書」(川崎市男女共同参画センター 平成28年1月)は30人のシングルファザーにインタビューした結果を掲載している。

シングルファザーになったことをきっかけに、会社の役職を降りた人がいる。正社員からパートになった人もいる。仕事と家庭を両立させるために、仕事を縮小せざるをえない。だが、Sはいっさい仕事のペースを変えなかった。

この調査報告書には、シングルファザーたちには、自分のことを包み隠さず話せる場はないという声が複数掲載されている。シングルファザー同士だとわかっていても、お互いの状況を話し合うことはしない。マイノリティであることをことさら言い立てることはしない。だから、孤立しやすい。

同調査は、シングルファザーは支援にアクセスするのに、シングルマザー以上に努力を必要とすると示す。

「本調査から把握される現実は、そもそも父子家庭を形成すること自体に一定の条件が必要であり、父子家庭を維持するにも一定の条件が必要である(略)その条件が整わなければ(略)子どもを分離して父子であることを維持するしかない」

具体的には、第1に親族によるインフォーマルサポートが必要である。第2には子どもの年齢・性別・人数が影響する。中学生以上であれば、父親は土日勤務や夜勤が可能だ。そして、第3に年間収入が700万円以上で、学歴も大学大学院卒であること。

つまり、父子家庭の成立には、家族関係が豊かであり、子どもが年齢的になどある程度自立しており、平均以上の安定した収入が必要になるという調査結果だ。Sはそのどれにも該当していなかった。

長時間労働することしかできなかった父

さらに、妻もまた、家庭を維持するうえでのハンディキャップをもっていた。

Sは、高校を卒業後、専門学校を中退。家を出て、アルバイトでトラック運転手として働いた。妻と出会ったのは23歳のとき。妻は当時18歳。親との関係が悪く、家出をし、Sのアパートに転がり込んだ。そのうえで、できちゃった婚で、生まれたのがR君だ。

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