東京「私学無償化」は家計にどう影響するのか 3年間で120万円の学費負担減は大きい
首都圏に住む子どもをもつ親なら少なからず衝撃を受けただろう。東京都の小池百合子都知事が1月16日に発表した、私立高校学費の実質無償化のことだ。対象となるのは、年収760万円未満の家庭。現在都に15万人いる高校生のうち、約3割がこの対象になるという。小池都知事はこの施策により、保護者の経済負担を減らすだけでなく、生徒の選択の幅を広げたい意向だ。
子どもをもつ家庭の大きな悩みの1つに養育費と教育資金の準備があると思うが、ファイナンシャルプランナーである私は、今回の小池都知事による発表を「今後の人生設計の在り方が変わる瞬間」だと思って見ていた。具体的には、各家庭における住む場所や住宅取得、進路に関する考え方が変わるのではないだろうか。
「引っ越し族」が出てきてもおかしくない
たとえば、住む場所について。ファイナンシャルプランニングの目的の1つは、与えられた条件の中でどれだけ生活の満足度を上げるかということだが、今回の私学無償化という要素が入ってきたことによって、東京で子育てをしたほうがいいのか、それとも千葉や神奈川に住んだほうがいいのか、という問題が浮上することになる。
今回のケースで考えると、私立の学費が年間44万円補助されるため、都内に住んでいれば子ども1人当たり3年間で単純に学費負担が120万円減ることになる。神奈川県民の筆者の場合、神奈川県相模原市と東京都町田市は隣接しており、小田急線の相模大野駅と町田駅は隣駅。今回の件で改めて、どちらに暮らしたほうが得なのかを考えてみると、学費負担だけ考えれば町田市のほうが得だということになる。
同じような議論が、東京と埼玉の境、そして東京と千葉の境でも成立する。家賃や土地の価格が同一水準と仮定すると、地元への愛着という要素を考えないのであれば明らかに都内在住が有利だ。人生設計上100万円得するかどうかというのは大きい。それも住まいの地域を選ぶだけで100万円得られるのであれば、子どもが複数いる家庭ではなおさらそのような選択が合理的になるだろう。
これによって、子どもの成長に応じて引っ越しを繰り返す「引っ越し族」が出てきても不思議ではない。「出産したら○○万円」など独自の給付金を実施する自治体もあるなか、子どもは奨励策の充実した地方自治体で産み、待機児童の問題がない地域で幼い子どもたちを育て、中学3年になったら、都内に引っ越し翌年の私学費無償化を狙う――。そんな子育ての仕方が成立してしまうのだ。早々に国が同様の制度を打ち出さないと、支払い損の自治体と、もらい得の市民が出てくることになり、ほかの地域からの人口流出が増えかねない。
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