子どもに「正論より共感」が響く本質的な理由 「言えばわかる」ほど単純ではない

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中学生だって同じですよ。ある女の子が「ね、お母さん、部活やめたい」と言ってきた。親はやめさせたくなくて、「何言ってんの、今までがんばってきたじゃない。もうすぐ選手でしょ、もうちょっとがんばんなさいよ。お母さんも応援してるよ、ファーイト!」とか言っちゃうんだよね。

そうすると子どもは、「だめだ、この人に言っても。わたしがいまどんなに苦しいか、ちっとも聞いてくれない」ってなっちゃう。親は、励ましているつもりだけど、共感がないところでそれを言われると、子どもはただ「お説教された」って思っちゃうのね。

「共感」すれば情報もバンバン入る

そこで「どうしたの?」って聞けば、「だってこうで、こうでこうで」って言い始める。「そうなんだ、そりゃ大変だね。あんたも苦しいね」って答えれば、子どもはうれしいから、どんどんしゃべる。

全部ぶちまけるとすっきりして、「もうちょっと、やってみるよ」となる場合もあります(笑)。

もちろん、そうならない場合もあるけれど、少なくとも理由がはっきりするんですよ。言っている本人も自分の気持ちを整理できるし、聞いている親のほうにも、情報がいっぱい入ります。

「ああ、これは体力的に無理なんだな」とか、「これは友達ともめてるのかな」とか「先生とうまくいってないんだな」とか、「この子、ほかにやりたいことがあるんじゃないかな」とか。そうやっていっぱい情報が入れば、的確な判断がしやすくなる。

それを、共感しないでいきなり励ましたりすると、そういう情報が何も入らない。だからとにかく、共感が最優先ですね。

――なるほど、そうですよね……。ただ、親の言い訳ですが、聞いてあげたくても忙しくて余裕がない、ということもありますよね。

そうですね、それはもう、最大の考えるべき点です。親はもう、ストレスがいっぱいなんですよ。とくにお母さんたちはね。日本の社会はいまだに、お母さんが子育て、という意識が強いから、パンク寸前ですよね。

子育てする世代は、仕事も一番忙しい時期だし、場合によっては、おじいちゃんおばあちゃんの世話もある。時間的にも金銭的にも、気持ち的にも労力的にも、そりゃ苦しいですよ。

そんなときに、たまたま子どもが親を怒らせる引き金をひくんです。それで「また、片づけしてない、ダメでしょ!」ってことになる。

でもそれって、ただ引き金をひいただけなんです。その前にもう、お母さんのタンクにはものすごい不満がたまってるわけですよ。それが一気に出てしまう。子どもがやったことなんて、ほんとちょっとしたことなんだけど、すべてのストレスがそこに出てしまう。

ストレスって、弱いところに出るんですね。わが子って一番弱い相手だから、そこに向かってしまうんです。だからストレスが少ないときは、子どもが同じことをしても笑って許せるし、ストレス満載のときは、絶対に許せない。

そういう意味で、とにかくストレスをためこまないというのは、非常に重要なことですね。親の精神が安定しているということ。過度の忙しさっていうのは、よくないんです。

――うーん……、そうですよね。わかってはいるんですけれど、わたしたち母親たちも、好きで過度に忙しくなっているわけではないので……。

そう、そこは非常に重要なテーマです。次回はPTAの問題についてお話ししますが、そこでも改めてお伝えしますね。

(次回は1月3日に公開予定です)

大塚 玲子 ノンフィクションライター

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おおつか れいこ / Reiko Otsuka

主なテーマは「いろんな形の家族」と「PTA(学校と保護者)」。著書は当連載「おとなたちには、わからない。」を元にまとめた『ルポ 定形外家族』(SB新書)のほか、『さよなら、理不尽PTA!』(辰巳出版)『オトナ婚です、わたしたち』(太郎次郎社エディタス)『PTAをけっこうラクにたのしくする本』(同)など。テレビ、ラジオ出演、講演多数。HP

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