――国際連合に対する反感、反ユダヤ主義、黒人嫌い、孤立主義、所得税廃止への情熱、移民排斥、といったマッカーシズム時代の反知性主義の主張がこの本の中で出てくるが、これらは今の時代にも共通しているようだが。
アメリカの歴史の中には、本質において、反知性的な考え方や行動が文化として力強くある。東部など都市部には、知性やヨーロッパ的な伝統を持ち、世界を見て行動するようなエリート層の考え方がある一方で、地方には、それを打ち破ろうという力が常にある。それが今回の選挙で強く出てきたということだ。ヨーロッパ的な知識階級層、エリートを信用せず、むしろ、自分の「心の習慣」の方が重要という考え方であり、同じようなイシューの形を借りながら、「反知性主義」は波のように繰り返しやってくる。
しかし、こうした強い「反知性」によって批判され、散々鍛え抜かれているから、アメリカの「知性」は逆に非常に強く、堅牢だ。だからトランプ現象が起きても、アメリカの「知性」は揺らぐことはなく、信頼できる。一方で、強い「反知性」もなかった日本では知性の力も弱い。これは第二次大戦に入っていった流れを見ても、よくわかる。
グローバリズムに一定の調整は必要
――グローバリズムは退行する、グローバリズムではなくむしろローカリズムという考え方もあるが。
大きな流れが出てくると、必ずそれに対抗する勢力が出てくる。しかし、グローバリズムの流れが止まるようなことはない。それには人間の持つ能力が高くなりすぎた。通信、移動、人々の交流がこれだけ進めば、もう戻りようがない。グローバリズムに一定の調整は必要だが、大きな流れとしては否めず、社会はこれから、グローバリズムの流れに乗って成長していくということははっきりしている。
アジア、アフリカなどはグローバリズムによって豊かになった先例にならい、それを経験したいと思っている。グローバリズムなしに発展することはなく、グローバリズムがローカリズムに影響を受ける、という流れだろう。日本でも近代化、グローバリズムの課程で「和魂洋才」という言葉が生まれたように、一気にアメリカ化したわけではなく、抵抗しながら進んできた。基調はグローバリズムということは否定しようがない。
――安倍首相は11月17日、ゴルフクラブを携えてトランプ氏と面会した。この本の中でも、アイゼンハワー大統領が反知性主義の流れで登場した政治家として取り上げられているが、安倍首相の祖父である岸信介氏はアイゼンハワー氏とゴルフのラウンドを共にし、関係を構築したという。こうしたアプローチは功を奏すのか。これからの日本の進むべき道とは。
もちろん、そんなこと(ゴルフ)だけで動くわけがない(笑)。TPPはだめになるだろうし、一時的に対外輸出も難しくなるかもしれない。日本としては冷静沈着に対応する力を身につけないといけない。中国など大陸で、自分の思想を絶対視する「原理主義」が進む中、そうした大国に囲まれた日本がどういう力を発揮できるかを常に意識していかなければならない。日本はアメリカと中国の間にあって地政学的に非常にユニークな立場にいる。
「原理主義」一本やりで世界は行かないことを実証するための努力を我々は続けなければいけない。原理主義に対するアンチテーゼを示し、こういう道もあるのだということを提言していく必要があるのだ。一つの国の原理主義は世界を支配できない。今後、世界がどう折り合っていくのか、その知恵を出していく。それが日本の存在価値なのだ。
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