テレビカメラの注目を集める
その夜、テレビに横顔を映されたドナルド・トランプは、タキシードを着たおんどりにしか見えなかった。「ヘルメット」の呼び名で知られる彼の金髪が額からうなじにかけて曲線を描き、鶏のとさかを思い起こさせる。
本物のおんどりなら、とさかには雌の目を引き、敵を威嚇する働きがある。2011年のホワイトハウス記者クラブ主催の晩餐会で、支持者や批判者たちとともに席に着いていたトランプの場合は、テレビカメラの注目を集める働きがあった。おかげで、コメディアンのセス・マイヤーズと現職のアメリカ大統領の両方が「余興」の名の下にトランプをさんざんネタにする間、彼の反応がカメラにとらえられたのだった。
トランプが苦痛を感じている様子がうかがえたのは、マイヤーズがたっぷり2分半、彼をバカにしている間だけだった。出席者たちが笑い声を上げ、背伸びをしてトランプの姿を見ようとしているときに、彼は人を殺せそうな視線をマイヤーズに向けていた。同じテーブルの出席者たちが笑いをこらえ切れなくなっても表情を変えず、にらみつけたままだった。
そして、「オバマ大統領がアメリカ生まれだと確信している人が国民の38%しかいない」との調査結果にマイヤーズが触れたところで、トランプがネタにされていた理由が明らかになる。アメリカには、「大統領はアメリカ生まれでなければならない」という憲法規定がある。そのため陰謀論者たちは、大統領の出生地に関する調査の結果を捏造し、「オバマは大統領になる権利のないよそ者だ」と主張していた。
トランプは、長い間、熱心にこの「バーサー主義(birtherism)」を広めようとしてきた。そのため彼は、「バーサー論は非建設的で、人種差別的ですらある」と考える人々の批判の的になっていた。トランプはそうした批判に対し、自分は偏見にとらわれているわけではなく、重大な疑問を提起しているだけだと反論し、「私は人種差別から最も遠い人間だ」と主張していた。
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