――アメリカの反知性主義とはどのようなものか。
アメリカには知的な生き方や知識層に対する憤りがあり、そういった生き方の価値を否定し、矮小化しようとする動きが常に存在してきた。進化論などの科学を否定するキリスト教の福音主義(聖書にもとづく信仰を強調するプロテスタントの考え方)であったり、共産主義のみならず知識人全体を攻撃したマッカーシズム、ビジネス重視の実利主義など、建国以来、知的権威やエリートとされる層を批判の対象とする潮流があり、折々に先鋭化して、歴史の舞台に表出してきた。
1900年の初頭、ヨーロッパから大量の移民が押し寄せ、貧困が深刻化、格差の拡大と同じタイミングで、反知性主義が台頭したが、ここ最近はラテンアメリカからの大量の移民流入などを背景に同様の機運が高まりつつあった。
反知性主義はアメリカの「本質」
――今回のトランプ勝利の背景にもこの流れがあると。
反知性主義はアメリカの「本質」だ。歴史的に振り子のようにその流れは顕在化する。ここで区別しなければならないのは「知能」(インテリジェンス)と「知性」(インテレクト)だ。「知能」は物事を把握し、解決法を考え、実行する能力であり、「知性」はその上に、「人間性」や「つつしみ深さ」「畏敬の念」といった要素を加えた力、すなわち、吟味し、熟考し、疑い、理論化し、批判する力を指す。つまり、知性とは、知能が「評価した」結果を客観的に「評価する」力ということになる。アメリカにおける反知性主義とは、「知能」を重視しても「知性」を軽蔑し、さげすむことであり、学者や科学者、ジャーナリストなどが批判の矛先となってきた。
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