「せっかく」という日本語に込もった深い意味 英語で表現してみるとしたら何と言う?

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三つ目の「せっかく」の意味は、「especially」(ことさらに)、「specially」(特別に)、「particularly」(特に)などと表現できるでしょう。これらの英単語は、どれも一つに集中するという意味を含み、適切な対訳に感じられます。

「せっかく」の重み

しかし、どうも気になるのが、二つ目の英訳です。間違いではないと思うのですが、この「滅多に得難く、恵まれた状況を大切に思う気持ち」は、英単語一つではとても表現しきれないと思うのです。

仏教的観点からみれば、この気持ちは「縁起」という「物事はさまざまな偶然と偶然の事象がつながりあって成り立っている」という思想を基本とする、現実理解の表れだと考えられます。人間の推測や計算をはるかに超えた何かのはたらきかけで存在する現実は、不可思議(思議することができない)でしかありません。

たとえば、「今」というこの時間も、無数の事象のつながりで成り立っています。そして、さらに掘り下げれば、私たちがこの世に生を受けたということも、思慮をはるかに超える無数の事象のつながりがあって存在します。そして、その無数にある事象の一つでも欠けてしまえば、私たちの「いのち」も「今」という時間もないのです。

そう考えてみると、本当にすべての物事は当たり前ではないと、改めて気がつかされます。しかし、ここで「問題なのは、その事象に自分の物差しや都合で、よし悪しを判断してしまう私たちのエゴです。基本的に事象自体にはいいも悪いもないのです。

これらを踏まえると、二つ目の意味の「せっかく」の説明は必然的に長くなり、その英訳の表現も多様になりますが、私のオリジナルでは「Being provided by an incomprehensible power/working.」(思慮できない力/はたらきによって与えられた)と表現したいと思います。

こうして見つめ直してみると、私たちの日常生活の中は「せっかく」だらけです。しかし、物が溢れ、私財があれば何でも簡単に物事ができるようになってしまった今日、私自身、感覚が麻痺し、その「せっかく」の意味を通した感謝の気持ちを忘れてしまうことがあります。正常な感覚を取り戻すためにも、物事の表には現れない、その背後にあるものに意識を向けられる目を養っていきたいと思います。

「せっかく」は、日本人が深い感謝の気持ちを表す言葉の一つなのかもしれません。

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大來 尚順 浄土真宗本願寺派僧侶

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おおぎ しょうじゅん / Shoujun Oogi

1982年、山口県生まれ。浄土真宗本願寺派僧侶でありながら、通訳や翻訳も手掛ける。龍谷大学卒業後に単身渡米。カリフォルニア州バークレーのGraduate Theological Union/Institute of Buddhist Studies(米国仏教大学院)に進学し修士課程を修了。その後、同国ハーバード大学神学部研究員を経て帰国。帰国後は東京と山口県の自坊(超勝寺)を行き来しながら、僧侶として以外にも通訳・翻訳、執筆・講演などの活動を通じて、国内外への仏教伝道活動を実施。翻訳著書も多数出版する傍ら、初級英語で仏教用語をやさしく解説した「英語でブッダ」(扶桑社)も非常に好評のほか、「お坊さんバラエティ ぶっちゃけ寺」(テレビ朝日系列)にも出演。
 

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