現場感なき、危うい安倍首相の「空中戦」 37歳の若手市長と話して感じたこと

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先週、三重県の松阪市を訪ね、37歳の山中光茂市長に会って話を聞いた。東日本大震災の後、被災地支援のために陸前高田市に副市長を長期に派遣して注目された市長だ。

慶大法学部卒で、著書によれば外交官試験の学科試験に合格しながら、面接で外務省と合わないと知って辞退し、群馬大医学部に学士編入試験で入って医師となる。アフリカに渡ってエイズ対策で奮闘した。外交官挑戦中には生活費稼ぎでキャバクラのスカウトも、という異彩の首長だ。国会議員秘書、三重県議を経て、2009年の市長選で自民党、民主党などが相乗りする2期無投票当選の現職に徒手空拳で挑み、約1万票差で初当選した。

短時間だったが、応援を受けたみんなの党の渡辺代表との交流、政治を見る眼、地方自治の問題点などについて尋ねた。本質を射抜く主張、人間と社会に対する独特の奥深い理解に目をみはった。実像の見極めはつかなかったが、将来有望な非凡の人材と感じた。

山中市長は、中央政界のリーダーの名前を挙げて、「いま現場感を感じない政治家が多い。現場が求めているところに対して、なぜ政治が必要なのか、それが重要」と言う。安倍首相が意欲的な憲法第9条や改正要件を定めた第96条の改正論を取り上げ、「なんのために、どういう幸せ、未来、世界につながっていくのかという話が根本なのに、その議論がなく、空中戦をやっているのは情けない」と憤慨する。同感だ。「いまの国会議員には地方自治のことが本当にわかっている人はほとんどいないと思う」とも指摘した。

好調の安倍首相が高支持率を維持している理由を考えると、何よりも「経済を変える」という現場感に支えられた政権運営が国民の評価を得ているのが大きい。「押し付け憲法打破」という観念論の色が濃い安倍首相だが、憲法改正に正面から取り組むなら、「空中戦」でなく、国民生活と社会の将来像を描き出す未来指向の「安倍憲法案」の提示が必要だ。それによって国民の幅広い支持を獲得する道を目指すのが改憲の王道である。

(撮影:尾形文繁)

塩田 潮 ノンフィクション作家、ジャーナリスト

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しおた うしお / Ushio Shiota

1946年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
第1作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師―代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤』『岸信介』『金融崩壊―昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『安倍晋三の力量』『危機の政権』『新版 民主党の研究』『憲法政戦』『権力の握り方』『復活!自民党の謎』『東京は燃えたか―東京オリンピックと黄金の1960年代』『内閣総理大臣の日本経済』など多数。

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