弁護士の倉重公太朗です。非正規雇用にある人たちが「貧困」に陥りやすい原因は、正社員という制度にあるということを、前回の記事(正社員の特権が「非正規貧困化」の根本原因だ)で指摘しました。つまり、正社員の「特権」がアンバランスなほど強すぎるために、非正規雇用の活用による人件費調整が行われてしまう、ということです。どうして正社員「だけ」に、強い雇用保障という「特権」が与えられているのでしょうか? 今回は、日本型正社員の本質から、正社員にのみ与えられた「特権」が生み出すさまざまな「ひずみ」について、考えたいと思います。
そもそも正社員と非正規雇用において、自らが有する経験・スキル・知識などが問われずに、「正社員か、非正規か」というあたかも身分制度のような処遇の違いは公平とはいえません。正社員に与えられた特権的な雇用保障を改革することが、真の意味での非正規「貧困」対策であり、真に公平な雇用ルールの第一歩なのではないでしょうか。そして、それは最終的に働く人すべての幸せにつながるものなのです。
正社員ルールは、昭和・高度経済成長期のもの
そもそも日本の雇用ルールは、現在、労働契約法という法律に定められています。日本型正社員の2大特徴は、①一度雇ったらなかなか解雇できない解雇権濫用法理と、②一度上げた賃金はなかなか下げられないという不利益変更法理です。これらのルールは、元から法律で定められていたのではありません。昭和の時代の最高裁判決から生まれたルール(判例法理)です。当時の時代背景を考えてみると、人口は増加し、経済も右肩上がり。まさに高度経済成長期でした。
当時の日本企業では、新卒採用で終身雇用、年功序列が当たり前であり、新卒で入社した企業に定年まで勤め上げるのは当然、という社会情勢でした。こうした「終身雇用が当たり前」という考え方は、単に労働契約を結ぶのではなく、「会社」という会員制組織のメンバーになるという意味で「メンバーシップ型雇用」<濱口桂一郎 著『日本の雇用と労働法 』(日経文庫)参照>などといわれるところです。
メンバーシップ型雇用の特徴は、終身雇用、無限定な仕事、広い職種転換、人事ローテーション、全国転勤、長時間労働など、いわば「昭和的働き方」といえるものです。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら