「解雇しやすい社会」にすれば正社員は増える

真の意味での雇用の安定をどう考えるべきか

メンバーシップ型の終身雇用が当然とされていれば、解雇によって会社から追い出すのは「よほど例外的な場合」のみ、ということになります。実際の裁判例でも、解雇が有効となるには「単なる成績不良ではなく、企業経営や運営に現に支障・損害を生じ又は重大な損害を生じる恐れがあり、企業から排除しなければならない程度に至っていることを要」するという表現が使われています。

しかし、現実に企業経営に支障や重大な損害を生じることを待っていたのでは、企業の存続自体が危ぶまれてしまいます。経営危機が起こってから対処したのでは遅いのは、言うまでもありません。そうすると結局、正社員を解雇をすること自体が難しくなるのです。

ひるがえって、現代はどのような状況でしょうか。バブル崩壊後、「失われた20年」とも表される景気低迷期といわれつつ、「いざなぎ景気」を超える戦後最長の(実感なき)景気回復期、リーマンショック、デフレ、アベノミクスによる(実感なき)株高、Brexit、通貨安競争などなど、企業を取り巻く経済環境は文字どおりめまぐるしく変動しています。最重要課題である、人口減による高齢化社会にも向き合わなければなりません。

有名な大企業でもリストラのニュースを耳にすることが珍しくない今、昭和の高度経済成長期と現代の時代背景が違うのは明らかです。しかし、労働法は、いっさい変わっていません。いまだに終身雇用を前提とした考え方がそのまま生き残っています。

正社員1人あたりのコストは4億円にも

しかし、それではリスクのある新規事業へのチャレンジや、新規部門の設置・撤廃などを機動的に行うことができません。「正社員」を定年まで雇うことのコストは、3億円とも4億円弱とも言われる中、このようなリスクを冒して新規事業にチャレンジする機会を、法律が奪っているともいえます。日本においてイノベーションが起きにくい一因になっているのです。

そして、経済環境の変化に応じた機動的な労働力の移動ができず、労働法が時代とミスマッチとなった結果、雇用が滞留・固定化し、前回述べた非正規の「貧困」や、際限なき長時間労働、メンタルヘルス、ハラスメント、ブラック企業の出現など、さまざまな「ひずみ」を生んでいるのです。一部の正社員だけが特権を受け、非正規・若年層が割を食らうというのは、まさにいびつな構造です。

これまで述べた日本型正社員を前提としたルールの弊害は、企業に正社員としての採用を抑制させる効果があり、必然的に非正規を活用するという方向に向かってしまうという点です。そうすると、非正規問題解決の方策は、非正規雇用の底上げをしようという方向ではなく、非正規と正規を近づけることになるでしょう。

今までのような「身分制」ではなく、むしろ能力やスキル、経験、職歴などにより、公正に評価する方向が公平だと考えます。正社員の雇用保証のあり方を変えることにより、正規と非正規の違いは、個々のパーソナリティやライフスタイル、ライフステージ、価値観の違いによる「働き方の違い」だけとするべきです。

このような意見を言うと、「正社員をなくして、皆を非正規にするのか! けしからん!」という反論がありそうです。しかし、単純に「正社員をなくせ!」などという安易な議論をするつもりはありません。正社員の立場「だけ」が高い現在の雇用慣行において、その不公平な格差を問題としているのです。

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