OECD2015年対日審査報告書によれば、「企業は、雇用の柔軟性強化や、強い労働保護下にある正規雇用者を解雇するコストを避けるため、非正規労働者の雇用を…(中略)…増やしてきた」とされています。このように、非正規のみに雇用調整のしわ寄せをくらっている構造自体が問題なのです。社員すべてを非正規にして、「いつでもクビにできるようにしよう」という話では決してありません。
そもそも、解雇ルールの根底にある「ひとつの会社で定年まで面倒を見てもらおう」という発想自体が、これからの時代、最大のリスクであると筆者は考えています。日本経済の5年後・10年後の見通しも立たない中、終身雇用を保障できる会社など多くありません。
一生勤めていこうという会社(部門)がなくなったとき、初めて焦るのでは遅いのです。自分の人生をすべて企業任せにしてよいという時代は終わりを迎えつつあります。むしろ「自らのスキルアップこそが最大のセーフティネットである」という発想から、能力開発のあり方を再検討すべきだと思います。
解雇解決金制度は、泣き寝入り防止になる
具体的には、正社員の雇用調整をする際に十分な補償金や再就職支援措置、キャリアコンサルティングなどを行うと共に、失業保険や実務に即した職業訓練などの公的給付の拡充により、この保護は十分に図れるでしょう。
また、企業が雇用調整の際に支払う補償金について、たとえば「給料の10カ月分」と高額にすれば、経済合理性の観点から安易な解雇はむしろ避けられるようになると考えられます。解雇紛争については、今は労働審判という裁判所の手続において「給料の◯カ月分」という形で和解をすることが多くおこなわれています。しかし、これを裁判ではなく、誰でも、労働者が申請すればもらえるようにすることのほうが、はるかに合理的でしょう。
現に、解雇規制が日本同様に厳しく、雇用が硬直化していたイタリアでは、今年の1月から解雇法制を改革し、最大24カ月分の金銭補償による解雇を認める法制度となりました。その結果、正社員が増えつつある最中だそうです。経済改革には、雇用法制の改革が必要不可欠なのです。
労働者にとっては何カ月(場合によれば何年も)もの時間と多額の弁護士費用をかけて、ようやく和解金を勝ち取るというより、はじめから金銭補償を認める方が生産的ではないでしょうか。むしろ、経済的・時間的理由からこのような手間をかけられず、泣き寝入りしている労働者にとっては、金銭的に保護する結果となります。このように、現に正社員として働く人にとっても、メリットは大きいのです。私ども弁護士にとっては、解雇裁判の仕事は減るでしょうが、社会全体で見れば喜ばしいことでしょう。
私は、正社員の強すぎる雇用保証にメスを入れずに、根本的対策となる方策がほかにあるとは、どうしても思えません。以前、とある場所でこのような話をしたら、「労働者同士の対立をあおる詐欺師だ!」と言われたことがありました。しかし、それではどうすれば今の非正規格差を是正できるのでしょうか。ぜひ、納得のいく議論をしたいと心から思っています。
「なぜ、正社員『だけ』が強く守られているのか?」そんな、当たり前の問いに、真正面から向き合う時期に来ていると考えます。日本でも真摯な議論が活発になることを祈って、本稿の締めとします。
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