(最終回)理系的教養をめぐって

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稲葉振一郎・山形浩生


 稲葉 前回、SF小説の登場人物に見られる教養のあり方についてお話ししました。僕自身も、そういったものに対する思いがずっと残っていて、30歳を過ぎたあたりから、自然科学や工学に関するある程度の素養を持っていたほうが面白いかな、なんてことを思い始めました。そんなことを考えながら、日本の教養談義を眺めていると、理系的教養に関する話題がすっぽりと抜け落ちているのではないか、という気がしています。
たとえば自分が大学に進学するとき、理系か文系かを選択しなければならない。でもって理系を振り捨てて文系に進んだわけですが、そのときに何かが欠落してしまったと、今にしてみると感じています。

 山形 理系を「振り捨てた」という感覚、あります? 理系・文系の分かれ目って、数学ができるかどうか、もっと詳しく言うと、微分積分に耐えられるかどうかであって、理系に捨てられた人が文系に行く、というのが僕のイメージだったんだけど……。

 稲葉 それは理系的エリート主義でしょう(笑)。

 山形 もちろん、そういうことかもしれない(笑)。

 稲葉 理系・文系の区切りっていう話で言うと、教養の復興とか再建というときに、理系の人たちの危機意識や実践のほうが、文系の人たちにくらべて健全な気がしています。文系の人たちは、たとえば、「新しい歴史教科書をつくる会」とそれに対する政治的批判のような、いわば旧態依然たる議論を続けている。それにくらべれば、ゆとり教育のおかげで日本の理系教育はダメになったのだから、これを建て直すために新しい教科書をつくるという、左巻健男たちのグループのほうが、僕は明らかに偉いと思いますね。
話を元に戻すと、日本の教養論議の文脈では、大正教養主義以来、どうしても人文が中心となっていますが、どこかでやはり理系的教養についての話が必要でしょう。日本だけではなくて、欧米でも似たり寄ったりなのかもしれませんが。

 

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