かわいいバッタではなく、イナゴ
グルメ天国の香港で何がいちばんおいしいか?
私にとっては断トツにお粥である。
お粥といっても実はいろいろな種類がある。香港のお粥は「広東粥」と言われるタイプで、貝柱などの乾物でたっぷりダシを取って、おコメが原型をとどめず溶けるぐらいに煮込む。そこに魚の切り身を入れる「魚片粥」、ピータンと豚肉を入れる「皮蛋痩肉粥」、肉団子をいくつも入れる「肉丸粥」などなど、思い出すだけで香港に飛んで行きたくなる。
そのお粥を何度も食べた香港のお粥店「利苑粥麺専家」が1月末に閉店されたとニュースで知り、「ああ、せめてもう一度行きたかった……」とショックを受けた。利苑は香港島の繁華街のコーズウェイベイにあり、香港観光で店の前を通った人も少なくないはずだ。40年以上の歴史があり、お粥のダシの取り方が絶品で店はいつも混んでいた。
それでも店を畳むことにした理由は、不動産価格の上昇による家賃の高騰だという。競争原理が根付いており、ビジネスの盛衰にはドライな香港だが、今回のメディアの論調は「チャイナマネーの流入→家賃上昇→中国が悪い」というネガティブな反応が目立ち、中国と香港との対立や不一致を意味する「中港矛盾」という言葉が飛び交った。
中港矛盾は「陸港(大陸と香港)矛盾」とも言う。もともとあった言葉だが、2012年ごろから香港で一種の流行語状態となっている。
ほぼ同時に流行語となったのが、中国人に対する「蝗蟲(バッタ)」という呼び方である。草むらにいるようなかわいいバッタではなく、昔から中国で食物を食い荒らすことで恐れられた「飛蝗(イナゴ)」に近いニュアンスがある。「蝗蟲天下」という歌が流行し、人々は、無数のバッタに覆われてしまうように、香港がいずれ中国にのみ込まれてしまう未来予測を「蝗蟲論」と呼んで語り合っているのである。
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