香港人はなぜ中国人を”バッタ”と呼ぶのか? 返還15年で深刻化する「中港矛盾」

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中国指導部も“危機感”を共有

本来、香港の「50年不変」の構想は、英国100年の植民地統治によって生まれた「中港矛盾」を50年かけて解きほぐすことが出発点であった。その間に相互依存、相互理解を深め、中国は経済成長と民主化を進み、香港は中国への愛国心を育てる――そんな思惑だった。

ところが、実際に返還から15年を経て浮上しているのは、両者の溝が埋まらないどころか逆に広がっているのではないか、という疑惑である。

北京で開催中の全国人民代表大会でも、「中港矛盾」が活発に議論されるている。

香港に対する北京の窓口、香港特別行政区弁公室トップの張暁明主任は会議上、中港矛盾の深刻化の解決に取り組むべきだとの認識を示した。

「最近の粉ミルク制限騒動にみられるように、内地の人々の(香港での)不動産購入やショッピング、旅行、医療、就学、就職は香港に大きな利益をもたらす一方で、香港の不動産不足、物価上昇、家賃上昇、サービスの低下や商品不足を招いていることに向き合い解決しないとならない。感情の対立をこれ以上、拡大させてはならない」

張主任はさらに中国の中央政府と香港の特別行政区政府が、共同で中港矛盾の監視と解決のためのシステムを作り上げることを提案した。どうやら北京の指導部にとっても、中港矛盾の深刻化は放置できない段階に達し,中国指導部に危機感が共有されつつあるようだ。

1990年代からの20年間は中国にとって「成長の20年」だった。しかし今、環境破壊や貧富の格差など高度成長の代償が中国を悩ませ始めている。香港における中港矛盾の深刻化もまた、中国の成長と拡大がターニングポイントを迎えていることを示す象徴のひとつと言えるだろう。

野嶋 剛 ジャーナリスト

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のじま つよし / Tsuyoshi Nojima

1968年生まれ。上智大学新聞学科卒業後、朝日新聞社入社。シンガポール支局長、政治部、台北支局長などを経験し、2016年4月からフリーに。仕事や留学で暮らした中国、香港、台湾、東南アジアを含めた「大中華圏」(グレーターチャイナ)を自由自在に動き回り、書くことをライフワークにしている。著書に『ふたつの故宮博物院』(新潮社)、『銀輪の巨人 GIANT』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『台湾とは何か』(ちくま書房)、『タイワニーズ  故郷喪失者の物語』(小学館)など。2019年4月から大東文化大学特任教授(メディア論)。

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