私が見たところ、中国人と香港人の間に横たわる最大の問題は、「香港返還」という歴史的な出来事に対する認識にズレがあることだ。
中国人は、香港は中国の一部になったと考えた。英国の植民地から解放され、香港の人々も同じ中国人になった。香港のほうが経済的には発展しているのは確かだが、われわれと本質的には同じ中国人であって何も違わないという考え方だ。
中華民族への愛はあるが、国家への忠誠心はない
これに対し、香港人はこう考える。中国に返還されたのはいい。しかし、鄧小平が約束したように中国と香港は一国二制度で区別されており、中国とは根本的に違う。そこには「中国人よりも私たちは上等だ」という香港人の優越感も多少は含まれているだろう。
香港の人々に「国家」に対する忠誠心はあまりない。ただ、中華民族という意識から来る「愛国心」があり、同時に英国統治下で根付いた民主と人権への強い意識はある。そのため、日本との尖閣諸島問題については激しい反発を示すが、中国の天安門事件にも息の長い反対運動を続けている。
加えて共産主義や共産党については、香港住民の多くが中華人民共和国成立前後に大陸から逃亡してきた人々であるだけに、心理的には受け入れがたい部分も残している。
一方で香港は移民の都市であり、「生存」のために現実的利益を優先する思考方法がしみ付いている。香港返還と中国の経済成長の到来が合致したことで、中国への心理的抵抗は大きく軽減され、民主化やメディアに対する中国の有形無形の圧力には目をつぶる形で「中港蜜月」の15年が実現したのだった。
そんな精神と実利との間でバランスを保ってきた中港の関係に変化が生じているのは、あふれ出る中国のパワーに対し、香港の都市・生活インフラが耐えきれなくなった部分も大きい。人口700万人が香港島と九竜半島のごく限られた地域で肩を寄せ合う香港は、普通に生活しているだけで息苦しさを感じる。そこに大量の中国人が入ってくれば、それを「バッタ」と例えて排外したくなる気持ちも理解できる。
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