先進国の人間にとって、グローバル化は新市場開拓のチャンスである一方、雇用を失うリスクとも背中合わせだ。欧州では若年層の失業問題が深刻化しており、中間層の仕事の多くは、新興国の人材やテクノロジーに奪われている。
国同士の壁がなくなる現状にどう対応すべきか。話題のビジネス書『ワーク・シフト』の著者で、ロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットン氏と、『10年後に食える仕事 食えない仕事』の著者で、ジャーナリストの渡邉正裕氏が、正反対の主張をぶつけ合った。
(構成:許斐健太)
日本は欧米より20年は遅れる
渡邉:『ワーク・シフト』では、人材市場のグローバル化が進む中、人々は高度な専門性を磨き、人的ネットワークを広げて、新しい仕事を生み出せると説いています。
私も2度この本を精読しましたが、確かに欧米では今後グローバル化が進み、個人がそのように働き方を変えていくことになるだろう、と感じました。でも日本で、そういう状況になるかと言われると、疑問が残ります。少なくとも欧米より20年は遅れるのではないでしょうか。
それは日本と欧米では環境が大きく異なるからです。『ワーク・シフト』は、ロンドン・ビジネススクールの産学協同研究「働き方の未来コンソーシアム」がベースになっていると書かれていますが、そこに日本人や日本企業は参加していましたか?
グラットン:日本企業からは富士通が1社だけ参加していました。インドから5社、シンガポールから4社参加したのに比べると、少ないですね。
渡邉:やっぱり、そうですか。私は日本と欧米でいちばん違うところは、移民を受け入れていないことだと思います。
グラットン:ええ、外国人として見ていても、その点は明白です。日本は先進国の中で最も同質化した国ですね。同一の民族が住み、言葉の壁も際立っている。
今、中国では何百万人という単位の人が英語を習得しており、逆に欧米人も中国語を勉強しています。日本では、英語を話せる人があまりにも少ない。
渡邉:それから他国とまったく違うのは、実はベビーブーム世代の影響力です。彼らは戦後、日本がまだ焼け野原だった時代に生まれて、まれに見る成功を果たした世代です。その世代から上が、日本では資産の約6割を握っています。
ベビーブーム世代から上は、テクノロジーの進化に影響を受けず、生活スタイルを変えようとしません。実際これだけインターネットが発達したのに、読売新聞は20年間、1000万部の部数を維持している。これはベビーブーム世代の影響が大きいはずです。彼らは今後20年間は生きます。だから、新しい環境に適応しにくいんです。
グラットン:なるほど、それはあるでしょうね。