難民申請者の目前に広がる不法就労の闇市場 闇市場がいまや公共事業にまで広がっている
マズラムの父、ムスタファは1999年にトルコの非合法武装組織クルド労働者党(PKK)を助けたとして現地政府に逮捕された。マズラムは難民審査官に、「7歳の時、父が私の目の前で拷問された」と話した。将来への不安を感じたバリバイ家は日本に避難する道を選び、数年の間に両親と5人の子どもたちも日本にやってきた。
裁判記録によると、父ムスタファは2000年に無罪になっていたが、彼の精神は日本に来てからも安定しなかった。
近所の公園で自殺
悪夢にうなされては暴れ、一家が住むアパートの部屋の壁は、あちこちに穴があいた。2008年、過去の拷問による心的外傷後ストレス障害(PTSD)とうつ病を患っていると診断され、抗うつ薬、鎮静剤、痛み止めなどの服用を始めたものの、昨年12月27日、近所の公園で、ムスタファは首をつり死んでいる姿で発見された。
仮放免という不安定な状況の中で、マズラムには、父の不遇の死に加え、一家7人の生活を支える重荷がのしかかる。月収は、毎月異なるものの、およそ30万円程度。だが、その収入が続く保証があるわけではない。契約書なしで就労している多くの仮放免者たちは、現金で報酬を受け取り、通告なく解雇されることもある。住民登録ができないため、部屋を借りる、銀行口座を開く、携帯電話の契約をする、といった生活に必要な手続きを自分の名義ですることは不可能だ。
最も深刻な問題は、健康保険証がないことだ。バリバイ一家には、数十万円の未払いの医療費がある。昨年、7歳の息子デニスが肺炎になり、68万円の医療費が請求された。病気になることは、借金を抱えるのと同じ、という状況が続いている。
救いがあるとすれば、川口市の建設業には全国平均を大きく上回る雇用機会がある、という点だろう。例えば、土木業の有効求人倍率でみると、今年3月は全国平均が2.70倍だったのに対し、川口市は7.8倍に上った。しかも、日本人は通勤圏内の東京に職を求める傾向があるため、地元には外国人の就労機会が少なくない。建設現場は特にクルド人の労働力を求める。
川口市の奥ノ木信夫市長は、クルド人たちに就労資格がないとしても、市として労働を止めさせることは難しいとの考えだ。
市長はロイターのインタビューで、クルド人の状況について「きちんとした証明(就労許可)がなくても、現実には勤めているのが本当だと思う。しかしそれを今さら市が、働いてはいけないとは言えない。誰でも生活していかなければならないし、家族もあるだろう」と述べた。
そして、そうした仮放免者に正式な在留・就労許可を与えない政府のやり方に不満を示し、川口市としては、就労許可を得て働いてもらい、納税してもらうのが最も望ましいと語った。