シェール革命の「都」に、群がる日本企業 製造業が息吹き返すヒューストンの今

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

フリーポート市に限らず、米国ではロイヤル・ダッチ・シェルやエクソンなど、化学工場の新設計画は引きも切らない。化学業界は年商70兆円に及ぶ米国最大規模の製造業。電機や繊維、住宅、おもちゃ業界など裾野も広い。その設備投資に火がついた。二十数年ぶりに肥料工場が米国内に建設されることも決まった。工場新設は建設業界にも多大な雇用を生む。

電気料金の大幅低下があらゆる産業に恩恵

割安なガス価格のメリットを享受するのは化学業界だけではない。鉄鋼業界は油井管やパイプラインの需要増で潤う。大手ニューコアは天然ガスを利用して鉄鋼を製造するプラントを建設中だ。GEは洗濯機などの家電工場をケンタッキー州に新設するほか、フォードやNCR、ワールプールなど自動車・電機工場も米国回帰の動きを示す。中国での賃金高騰も流れを後押ししている。

安価なガスを燃料に使った火力発電が増えた結果、一部地域の電力の卸売価格は2008年比で半値にまで下がった。電気料金の低下は、電力多消費型のアルミや鉄鋼、ガラスをはじめ、全産業に恩恵を与えている。原油も日欧に比べ割安となり、運輸費が圧縮。人とモノの流れが活発化する。

米大手調査会社IHSのチーフエコノミスト、ナリマン・ビーラベッシュ氏は、「シェール革命によって北米で産業ルネサンスが起きている。米国製造業の競争力向上がますます明白になりつつある」と指摘する。政府の介入によらぬ、民間の企業家精神が推進力。「すでにシェール革命によって全米で170万人の雇用を生んだが、20年までには300万人の雇用が生まれるだろう」という。最終勝利者は米国の消費者と見る。

また、米大手証券ゴールドマン・サックスのエコノミスト、ドミニク・ウィルソン氏は、「米国では今後、石油・ガスともに、1国の増産量としては過去30年で世界最大級の規模になる」と予想。その最も劇的な影響として、これまで長らく世界経済の足かせとなってきた原油価格高騰によるインフレリスクの緩和を挙げる。また、「原油・ガスの増産は米国の経常収支の基調的な改善とドル高を後押しする」とも指摘する。まさに世界のエネルギー・経済情勢は激変しつつある。

日本では昨今の円高修正について、公共投資増大と国債の日銀消化によるリフレ政策の賜物との解釈も多い。だが、それだけではない。ドル高の底流には、日本がアキレス腱とするエネルギー分野で米国に起こりつつある革命的変化と、民間設備投資を主導役とする米国経済の力強い復活の動きがある。

中村 稔 東洋経済 編集委員
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事