安倍首相は、パンドラの箱を開けるのか? 日中韓で新リーダーが誕生

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私の心配事

これらの海外メディアの懸念点について私の所感を以下に述べよう。

まずマイケル・グリーン氏も、一般の日本人が望んでいるとは思えないと述べている河野談話の見直しだが、なぜ改憲派の一部の政治家は過去の謝罪を覆すことで、歴史問題を頻繁に蒸し返すのだろうか。これは道徳的にも長期的な国益の観点からもお勧めできないが、国内の憲法改正や再軍備のためには極めて合理的である。というのも隣国が反発して強硬策に出ると、国内世論はより過激な方に流れるからだ。

歴史問題に関する自民党の対応は、よく徹底的に反省して欧州の国際的融合に貢献したドイツと比較される。しかしこの違いは別にドイツ人が日本人より誠実だからというよりかは、ドイツは戦後フランスやイギリス、アメリカで大きな力を持つユダヤ人と和解する必要があったし、指導部もナチスと完全に入れ替わったからだと思う。しかし日本ではアメリカの反共政策で戦前の日本の指導部が温存され、隣国が貧しく影響力もなかったのでアメリカさえ見ればいい外交が続いてきた。

ただ中国がクジラ、韓国がイルカぐらいのサイズになり、アメリカが相対的に小さくなってきている現在、過去と同じ外交パターンを繰り返し歴史問題でアジア外交を拗らすのは、外交立て直しを安倍氏に期待する日本の財界も心配しているだろう。

次に憲法改正についての各国メディアの警戒だが、私は別に、憲法改正自体は悪くないと思う。しかしながらタイミングと今の自民党が敢行する正当性には疑問を抱いている。

憲法改正は決して衆院選の争点ではなかったし、改正の内容でも国民の間で全然議論されていない。自民党は「他国は憲法を何回も戦後に改正している」と主張しているが、憲法改正自体が批判されているのではなく、未だ国民の信頼を十分に受けていないのに、国民が望んでない再軍備を強行しようという憲法改正だから批判を受けているのだ。

最後に集団自衛権に関してだが、この集団自衛権とやらの一体何が問題なの、という感じだが、これは政治家特有の「有権者に実態を知らせないためのまやかしのネーミング」である。本質を反映した “アメリカが攻撃されたら日本も参戦法案”という名前なら、まず国民は認めないだろうが、有権者が納得してこれを選ばれるのであれば私は文句言わない。

さらに言えばこのような話は当然裏でアメリカと握っているはずで、本来はアジア地域での軍備増強を進めつつ予算は削減しなければいけないアメリカの戦略の一貫なのだが、「日本が自主的に提案した」という形をとることで両国で話を通りやすくしようとする意図が透けて見える。

これだけ何でもお見通しだと、危険人物扱いされ米国への入国を拒否されるか、CIAのリストに載るか、お正月に帰省した時に寝こみをNavy SEALs(オサマビンラディンを殺害した特殊部隊)にやらるのではないか、と不安になってしまうが、当たらずとも遠からずではなかろうか。

私の本当の心配事

日本の新聞が周りにない環境なので、せっかく訳した各国の新聞の内容が皆様にとって意味のあったものなのかどうかわからないが、海外の視点をお届けしようと頑張ってハンギョレ新聞、マネートゥディ、新華社通信、エコノミスト、BBCなどを訳してお届けし、最後に所感を述べさせていただいた。ただひょっとすると、日本の新聞やテレビで報道されている内容と大差ないのではないか。

もしここまでの原稿を編集長に送った後、「ムーギーさん、これ、日本の報道を各国言語に外国の新聞社が訳し、それをムーギーさんが日本語に訳し直してコメントしただけなので、かなり骨折りでしたね。もちろん、コラムには採用できません」と言われてしまうのか、はたまた「海外で情報収集・分析されるとやはり日本国内の視点とは違いますね。さすが4か国語ができるグローバルエリート。採用です」と言ってもらえるのか。

この原稿が皆様の目に留まるかどうかは、最近ご立腹気味の編集長の判断一つに委ねられているのだ。

ムーギー・キム 『最強の働き方』『一流の育て方』著者

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Moogwi Kim

慶應義塾大学総合政策学部卒業。INSEADにてMBA取得。大学卒業後、外資系金融機関の投資銀行部門にて、日本企業の上場および資金調達に従事。その後、大手コンサルティングファームにて企業の戦略立案を担当し、多くの国際的なコンサルティングプロジェクトに参画。2005年より外資系資産運用会社にてバイサイドアナリストとして株式調査業務を担当した後、香港に移住してプライベート・エクイティ・ファンドへの投資業務に転身。英語・中国語・韓国語・日本語を操る。著書に『世界中のエリートの働き方を1冊にまとめてみた』と『一流の育て方』(母親であるミセス・パンプキンとの共著)など。『最強の働き方』の感想は著者公式サイトまで。

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