評者 植田和男 東京大学大学院経済研究科教授
国債に関するありとあらゆる情報が満載された良書である。類書としては、旧大蔵省理財局によるものが1980~90年代に版を重ねたが、本書はそこでカバーされたテーマに加えて、三菱東京UFJ銀行の専門家たちが、国債投資やリスク管理の実務について説明するとともに、国債に関連した経済政策提言にまで踏み込んでいる。全体を通じて、GDP比200%を超える水準に達した政府債務に象徴される財政危機下、国債の主要投資家である金融機関のリスク管理はいかにあるべきか、あるいは一歩進めて、国債大量発行の中での金融仲介がいかに円滑に果たせるのかという問題意識が貫かれている。政策提言の中でも、ベンチャー企業支援の経済政策により日本経済の潜在成長力を高めることが財政健全化へのきわめて重要なステップだとの意見には同感である。
日本国債そのものについては、その発行の歴史、国債管理政策を含む発行にまつわるさまざまな制度、政策、さらに流通市場、税制、また、これらの国際比較に関する綿密な叙述がある。加えて、国債発行を決める財政の姿についても基本的な情報がそろっており、これらの章を百科事典のように使用することも可能である。
深刻化を続ける財政と国債金利の関係については、制度的な解説に加えて興味深い理論モデルも登場する。金融機関にとっての国債保有の意味、金利リスク管理については、伝統的なものから最新のものまで多くのツールが詳しく説明されており、有益である。しかし、いずれくる金利上昇局面は過去のデータ分析からは解明できない様相を見せるだろう。試されるのは、本書にあるようなツールを理解したうえでの金融と経済全体の連関に関する洞察力であり、経営者の判断力である。
きんざい 4200円 475ページ
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