伊藤計劃の遺作を導入部に円城塔が450ページの快著に仕立て上げた。魂の抜けた死体に擬似霊素とプログラムを書き込ん(インストール)で屍者(ししゃ)として蘇らせる技術が定着した19世紀末、若きワトソン博士はロンドンからアフガニスタン、日本、米国と、英国政府の間諜として探索の旅に出る。フランケンシュタイン、カラマーゾフ、レット・バトラー、川路利良、グラント将軍、ダーウィンまで登場し、虚実綯(な)い交(ま)ぜ物語は躍動する。重要な役割を果たすコンピュータがパンチカード式なのも心憎い。
アフガンでは屍者たちの銃撃戦、維新の日本では剣戟(けんげき)、米国では列車上の格闘とサービス精神も満点だ。生命とは、人間とは、言葉と意識とはといった哲学的問いが波乱万丈の冒険譚(たん)の中で収斂(しゅうれん)していく。兵士や労働者、記録係など意識と感情を欠いて働く屍者を現代に読み替えるとき、どんな答えが待ち受けるのか。めっぽう面白くてずしりと重い傑作SFである。(純)
河出書房新社 1890円
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら