前出の小栗氏は、やはり弔辞において「僕らは蜷川幸雄という人間を中心にした、大きな劇団の一員だよね、という話になりました。本当にそう思います。なぜならそれぞれが蜷川さんの優しさと、気配りを感じているからだと思います。僕をこの劇団に入れてくれて(中略)ありがとうございました」とも語っています。
集団のまとまりを表す概念に「集団凝集(ぎょうしゅう)性」というものがあります。この概念は、「集団にとどまるようにメンバーに作用するすべての力の合成されたもの」を意味しています。心理学者のフェスティンガーらは、集団凝集性の要因を以下の3つの次元で整理しました。
①構成員の魅力(集団を構成するメンバーが持つ魅力)
②活動の魅力(集団が目指す課題達成の魅力)
③特権の魅力(集団に所属して得られる威信や誇り)
「スモール・ステップ」で心を整える方策
小栗氏の弔辞からは、「蜷川劇団」には極めて大きな魅力があり、その一員であったことに大きな誇りを感じていることがうかがえます。そして構成員一人ひとりの誇りに感謝が加わることで、「劇団」という組織がより強固となり、組織の長である蜷川氏の厳しい言葉、高い要求も「当然」と受け容れるのかもしれません。
恫喝だけの組織では「ブラック企業」と揶揄されるだけですが、所属組織に誇りを感じられることで、構成員たちの貢献意欲や団結力が自ずと湧いてくるのでしょう。また、蜷川氏自身が、自らの仕事ぶりにとても厳しかったというエピソードも多いことから、これも前節の「送り手の信憑性」と重なってきます。
蜷川氏は、つねに「世界の舞台」を意識していたそうです。 だから自身にも役者にも厳しく接してきたのでしょう。とはいえ、高いレベルを求められるということは、意気に感じる反面、萎縮してしまう逆効果ももたらしかねません。
蜷川氏演出の舞台『身毒丸』で、5500人から主役に抜擢された藤原竜也氏は、弔辞において「俺のダメ出しで、お前に伝えたいことはほぼ言った、今はすべてわかろうとしなくても、いずれ理解できるときが来るから、そしたら少しは楽になるから、アジアの小さな島国の俳優にはなるな、もっと苦しめ、泥水に顔突っ込んで、もがいて、本当にどうしようもなくなったときに手を上げろ。その手を必ず俺が引っ張ってやるから」と、かつて故人から伝えられエピソードを紹介しました。
アンガーマネジメントの考え方は「ソリューション・フォーカス(解決志向)」を基本にしていることは毎回述べています。ソリューション・フォーカスには「スモール・ステップ」を良しとする考え方があります。これは、「10のうち、まだ4しか出来ていない、なぜなんだ」と考えるのではなく、「10のうち、もう4まで行っている、では5に進むにはどうすれば」ととらえることです。
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