キンドルでさえも、ガラパゴスの罠にはまる

なぜ日本は「電子書籍の墓場」なのか(下)

さらに、日本の出版社は、従来の出版契約のままでは電子出版ができないことになっている。というのは、出版社が持っているのは、著作権法第21条にある「複製権」を持つ者からその権利を譲り受けて、それを出版する権利だけだからだ。複製権を持つ者というのは「著作者はその著作物を複製する権利を占有する」と著作権法に書かれているので、著作者のことである。

出版・新聞 絶望未来』(山田順)では、電子書籍が普及しない理由が詳細に記されている。

つまり、出版社は著作者から「紙で本を出していいよ」という許可を得ているだけなのである。だから、電子出版となると、新たに著作者と契約を結ばなければならなくなる。

こうした日本独特の著作権の問題は、アマゾンン「キンドル」の上陸が大幅に遅れた原因でもある。アマゾンは当初、日本の出版社に、電子出版の権利、いわゆる「送信可能化権」があると考えていた。しかし、日本の著作権法では、「送信可能化権」を出版社は持っていないことになっている。出版社は改めて著作者と電子出版契約を結ばなければ、アマゾンなどの電子書店にデータを渡せないのだ。もちろん、新刊書に関しては、この点は解消されている。

カギを握る「著作隣接権」

このような著作権の壁を打破するため、現在、著作権法を改正して、出版社に「著作隣接権」を与えようという動きが本格化している。

著作隣接権というのは、簡単にいうと「著作者ではないが、作品制作にあたって大きな役割を果たした人達に認められる権利」である。

音楽でいうと、作詞や作曲をした人が「著作権」者であり、「著作隣接権」者は、歌手や演奏者、録音して原版制作したレコード会社などということになる。音楽の世界では、この隣接権により、歌手が持ち歌を歌う権利や、レコード会社が楽曲を独占的にCDにして販売する、あるいはネットで配信する権利などが認められている。

そこで、出版でも、書籍化するための組版、つまり「出版物原版」をつくった出版社には著作隣接権を与えようとしているのだ。この権利が出版社に与えられれば、著作者でなくても出版物の複製やネット配信ができる。そうなると、電子化するとき、一つひとつの作品ごとに契約を結ばなくてもよくなり、著作権処理の手間は簡素化される。

また、海賊版を、出版社が自ら訴えることも可能になる。現在の著作権法では、著作者でなければ海賊版を訴えられないことになっていて、出版社も著作者も困っていた。この問題も解消されるのだ。

この著作隣接権の問題は、これまで関係省庁と業界で何度も話し合われ、2012年の6月になってやっと法案提出で話がまとまった。最終的にこれを進めてきたのは、超党派の議員や出版社、作家らでつくる「印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会」(座長=中川正春衆議院議員)であり、11月8日に、法制度の骨子案「著作権法の一部を改正する法律案骨子(案)」が発表された。

しかし、衆議院が解散されたいま、この法案の命運は、今後の政治情勢次第となっている。

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