電子書籍推進派が見落としていること
これまで3回にわたって、日本が電子書籍の墓場であること、そして、本命とされるアマゾンの電子書籍端末「キンドル」でさえ、大して売れないだろうということを書いてきた。
すると、「そんなことはない」という反論が山ほど寄せられた。ただし、その反論はキンドルに期待を寄せる先進的なユーザーや、メディア界でもこれまでこの問題を追求してきた優秀な記者の方々、ITジャーナリストなどの方々が中心で、私の問題意識とはズレがある。
私が問題にしているのは、日本の電子出版市場の特殊性であり、これはキンドルとは、直接は関係ない。たとえば、著作権法の問題、制作が複雑でコストがかかる問題、紙の出版流通の特殊性などであり、その結果、実際にいま日本で出来上がった電子出版市場はボーイズラブ(男性の同性愛を題材とした漫画など、以下BL)、ティーンズラブ(少女向けのセクシャルな描画を含む漫画など、以下TL)中心の漫画市場だけだということだ。
つまり、日本の電子出版市場は、紙ならベストセラーになるような文芸書、ビジネス書などの一般書籍はほとんど売れていない。売れているのは、言い方は悪いが「エロコンテンツ」が中心だ。一般書籍の電子版の多くは、いまだに墓場行きなのである。
だから、この状態を打ち破らなければ、日本で電子書籍が本当に進展したとは言いがたい。まして、電子書籍推進派が言う「紙から電子へ」などというのは、見当違いも甚だしいのだ。今回は、このことを私の体験も含めて、書いていきたい。
それではまず、現在の日本の電子出版市場を再度、確認しておこう。インプレスR&Dの調査報告書によると、2011年度の電子出版の市場規模は629億円。これは10年度に比べ 3.2%のマイナス成長である。電子書出版市場は、一般の認識とは裏腹に、成長していないのである。
この約600億円の市場のうち、BL、TL中心の漫画が占める割合は、なんと約8割に上る。つまり、500億円近くがこうした漫画コンテンツなのである。それなのに、知的な電子書籍推進派の方々は、こうしたことが目に入っていないようだ。
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