2年前、「電子書籍元年」と言われた10年、私も自身の小さな会社で電子書籍ビジネスに参入してみた。そして初めて、この特殊なマーケットの存在を知り、自身の不明を恥じた。先のBL、TL専門プロバイダのアドバイスを無視して、経済書やビジネス書などの一般書籍を出したが、まったく売れなかったのだ。
何人もの作家たちから「紙の100分の1も行かない」と言われたが、それは本当だった。紙で名がある著者の本でもほとんど売れなかった。ダウンロード数にして月に1ケタ、中にはゼロという本もあった。これは、今でもそれほど変わっていない。
電子書籍を始めたが赤字ではやる意味がない。とはいえ、BL、TLなどの漫画は私の専門外である。BL、TL専門プロバイダは、たとえば、BL、TL専門誌に書いている作家に、アドバンスを、50万円、100万円と渡して新作を書かせていた。レディースコミックから発展したこのジャンルは、長らく紙で売れてきたが、急速に売り上げを落としていたからだ。そのため、生活できなくなった作家が増え、ケータイがそれを補う形になっていた。
そんなとき、「iPhone」「iPad」でアップルのアップストア(App Store)による単体アプリの電子書籍が盛り上がっていると知った。そこで、そちらなら一般書もいけるだろうと、いちばん実績のある配信会社と組んで、そこにコンテンツを提供することにした。
『もしドラ』は例外。主力はエロとお手軽成功本
この市場で当時売れていたのは、紙でもベストセラーになった『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(岩崎夏海)、『適当日記』(高田純次)だった。しかし、これは例外で、主力はエロとお手軽成功本などであり、こちらにもまた一般書の市場はなかった。
アップルの審査はエロに対しては厳しく、露出が強いBL、TL漫画はもちろん許可されない。パンチらでさえダメだ。そのため商品数はかぎられるが、それでもエロコンテンツは強く、AV男優の加藤鷹氏のセックス指南本『秘伝伝授』は今もランキング上位にある。
配信会社の若き担当者は、自らの経験から、アプリ書籍の読者を知っていた。
「20代、30代のお調子者ですね。女子もいますが男子が7割。頭はよくないので、難しいものは絶対ダメです。エロやお金儲けの本がよく売れます。ともかく、簡単で、すぐわかるものだけにしてください」
彼の言うとおり、アプリ書籍のランキング上位には、『~で何億稼ぐ』『3秒で~できる』『デキる人は~』などというタイトルのハウツーもの、『~でモテる』『女ゴコロ~仕方』『~のスローセックス』『~学ぶ絶頂エッチ』などのエロ系のものなどで埋め尽くされていた。
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